千葉港からの心地よい浜風が吹いていた。緑をバックにした千葉県立美術館(千葉市中央区)の特徴的な傾斜屋根は、それ自体がアート作品に見える。海に近いことから外壁には塩害対策として常滑焼のタイルが使われており、落ち着いた趣も感じさせる。
戦後日本を代表する建築家の一人、大高正人が手掛け、1974(昭和49)年に開館した。平屋建ての展示室や2階建ての管理棟で構成されている。展示室などは段差がない。また、直接触って鑑賞できる彫刻作品を常時展示している。約50年前から誰もが楽しめる、ユニバーサルミュージアムを実現していた。
傾斜屋根は日本の伝統的な様式を取り入れた。中庭まで大きく張り出している。通路につながる第7展示室から天井を見上げると、外側に向かってすっと伸びる傾斜が空間に溶け込んでいるように感じた。
大高は館内に点在する椅子といった調度品もデザインした。それらはどこか懐かしく、時を経ても飽きを感じさせない味わいがある。
2023年10月1日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載