重厚な造りの旧香港上海銀行長崎支店(長崎市)は、1904(明治37)年に、建築界の異才と呼ばれた下田菊太郎によって建てられた。周辺は当時、商社やホテル、英国領事館などが軒を連ねた一等地で、国内外の貿易商や船員らでにぎわった。
建物はレンガ造り3階建て。港に面した正面は石造りで、2、3階部分にずらりと並んだ柱が目を引く。中央部の柱4本は古代ギリシャ美術の装飾が美しいコリント様式の円柱、外側には2本の四角柱が建つ。
1階は営業フロアで、西洋人に適したサイズなのか、やや高めのL字形カウンターが設置され、その奥に執務スペースが広がる。2階と3階は居住スペースだと考えられている。2階にある天井に彫刻を施した豪華な部屋は応接室だったのだろうか。3階の窓越しに長崎湾を眺めながら、多くの外国船が行き交う貿易港の様子を思い浮かべた。
同支店の閉鎖後は警察署などとして使われた。今も残る数少ない下田建築とされ、1990年に国の重要文化財に指定された。
2023年8月20日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載