完成時には窓越しに木津川、桂川、宇治川の三川合流を望めた本屋の縁側
完成時には窓越しに木津川、桂川、宇治川の三川合流を望めた本屋の縁側

 天王山の山麓(さんろく)に木造モダニズム建築の傑作「聴竹居(ちょうちくきょ)」(京都府大山崎町)が、自然と調和した姿を見せる。設計した建築家の藤井厚二は東大を卒業後、竹中工務店に入社。後に京大教授を務めた。時代に先駆けて環境工学に着目し、自らの理論検証として建てた住宅の集大成が、5回目の自邸「聴竹居」だ。

茶室玄関と待合。右の巨石は地元の水無瀬川上流から牛車で運び込んだ
茶室玄関と待合。右の巨石は地元の水無瀬川上流から牛車で運び込んだ

 家族と暮らした本屋(1928年完成)、書斎としての閑室(同年)、客を迎え入れた茶室(31年)の平屋3棟で構成され、いずれも伝統的な数寄屋造りと西洋の建築様式を融合させた。本屋では居室に隣接する食堂や読書室などを食い込ませて雁行(がんこう)(斜めに配置)させ、天井や床の高さに変化を加えている。夏を快適に過ごすために、床下や地中から外気を取り入れるなど随所に工夫がみられる。

本屋は風の通り抜けを考慮し、居室を中心に4分の1円の形が切り取られた間仕切りや扉などで各室がつながっている「一屋一室」の構成
本屋は風の通り抜けを考慮し、居室を中心に4分の1円の形が切り取られた間仕切りや扉などで各室がつながっている「一屋一室」の構成

 関東大震災(23年)での洋風建築の大きな被害を見て、日本の気候風土をより一層意識して、生活様式に適した理想的な住宅を追求した。

日本人の理想の住宅を追い続けた藤井厚二の5回目の自邸「聴竹居」の本屋。後方は天王山
日本人の理想の住宅を追い続けた藤井厚二の5回目の自邸「聴竹居」の本屋。後方は天王山

 2016年に竹中工務店が藤井家から譲り受け、翌年、国の重要文化財に指定された。一般社団法人「聴竹居俱楽部(くらぶ)」が管理して公開している。

2023年8月13日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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