一見すると奇異に見える建物は、大地に立つ大隈重信を表現した。外観の正面は顔を、両端は足を、そして向かって左側の壁にある大きな穴は、過激派に投げられた爆弾で負傷し欠損した右足を表した。
大隈重信記念館(佐賀市)は1966(昭和41)年、政治家で早稲田大を創設した大隈の生誕125年を記念して建てられた。設計は早稲田大建築学科を卒業し、母校で長く教授を務めた今井兼次。アントニオ・ガウディを日本に紹介したことでも知られる。
トンネルのような階段を上っていくと淡い色に包まれた空間が広がる。柔らかく感じるのは建具以外に直線が見当たらないからだろうか。大きなステンドグラスは、早稲田大のスクールカラーのえんじを基調にして制作した。大小の長方形の組み合わせや色の濃淡で表現したひし形は、早稲田大の角帽の上部、中央の黄色いガラスは角帽の房だという。
記念館内の柱から広がるはりには、大隈が抱いていた東西文明調和の理念を託した。
開館50年を迎えた2017年に登録有形文化財になった。
2023年7月16日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載