御殿風ヒノキ造りの奈良ホテル。瓦屋根の両端には火よけのまじないとして鴟尾がおかれている

 多くの鹿が悠然と過ごす奈良公園の一角にある高台に、御殿風ヒノキ造りの奈良ホテル(奈良市)はある。日露戦争後に急増した訪日外国人を迎えるホテルとして1909(明治42)年に創業した。建築家の辰野金吾が、古都・奈良の景観に調和するよう設計。屋根には東大寺大仏殿などでも見られる鴟尾(しび)が火よけのまじないとしておかれ、壁はしっくいで塗られている。

本館玄関を入ると、高さ約9㍍の格天井の吹き抜けが優雅に広がる

 本館玄関を入ると、高さ約9㍍の格天井(ごうてんじょう)の吹き抜けに、春日大社の釣り灯籠(とうろう)を模したシャンデリアが映える。フロント前にあるドイツ風のマントルピース(装飾暖炉)には朱色の鳥居が重ねられ、和洋折衷様式の奈良ホテルを象徴している。

1922年に宿泊した物理学者のアインシュタインが弾いたピアノ

 関西の迎賓館として世界的著名人が数多く宿泊し、アインシュタイン、愛新覚羅溥儀(あいしんかくらふぎ)、チャプリン、ヘレン・ケラー、オードリー・ヘプバーンらが名を残す。

 長い歴史の中、経営母体の変遷や戦後の米軍による接収を経ながらも、今も変わらず美しいたたずまいを見せている。

興福寺の五重塔(右奥)が見えるティーラウンジ

2023年3月26日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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