熊本大(熊本市中央区)のキャンパスに建つ「五高記念館」は、芝や木々の緑に囲まれたイギリス積みの赤れんがが美しい。第五高等中学校(その後、第五高等学校に改称、戦後は熊本大に統合)の本館として、1889(明治22)年に文部省(現文部科学省)の技師だった久留(くる)正道と山口半六によって建てられた。
本館は教室棟として使われた。グレー調で統一された館内、階段の手すりは瀟洒(しょうしゃ)なデザインに仕上げられている。ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)や夏目漱石が教壇に立った「復原教室」には、落書きが彫られた生徒用机があり、静謐(せいひつ)な雰囲気の中に当時の学生の息づかいを感じる。2016年にあった熊本地震の修復工事では、しっくいの壁にフェルト状の毛織物を張り、漆で仕上げたブラックボード(黒板)が発見された。板書された文字が何を意味するのかは分かっていないという。
熊本地震で煙突が落下したり、れんがの壁に亀裂が入ったりしたため閉館していたが修復工事が完了し、4月から再び一般公開されている。
2022年7月31日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載