屋内の吹き抜けは鉄製の柱で支えられ、周囲を木製の手すりが囲む。写真は3階部分

 リノリウム張りの階段を上ると、吹き抜けの回廊が広がっていた。透かし彫りで装飾された木製の手すりの前で、天井にはめ込まれたステンドグラスを見上げていると、古い絵本の中に迷い込んだかのようだ。

外光に包まれる階段

 海岸通りに建つ上野ビル(北九州市若松区)は、このエリアが石炭集積港として隆盛を極めていた1913(大正2)年に、三菱合資会社若松支店として建設された。

 欧州を視察した同社設計部長の保岡勝也は、ステンドグラスや階段などの設計に、当時ウィーンで活躍していた建築家のオットー・ワーグナーのデザインを色濃く反映させた。手すりや柱頭の装飾には、幾何学的模様や渦を巻く植物模様を用いた。

 また、八幡製鉄所で製造された鉱滓(こうさい)レンガを外壁に使うなど、地元の材料や技術を融合させている。

長い年月で黒ずんだ鉱滓レンガ

 敷地内には当時の倉庫や石炭の分析室もあり、支店機能が残されている例はあまりない。

 近くには、赤色が映える、つり橋「若戸大橋」が架かる。上野ビルは2013年に国の有形文化財に登録された。

海岸通りで若松の歴史を今に伝える上野ビル

2023年6月11日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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