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鳥取を訪ねて

福光焼

倉吉の「COCOROSTORE」から車で約10分。
のどかな田園風景の中に
鳥取を代表する民窯の一つ「福光焼」があります。
日々の暮らしに潤いを与える器を目指し、
親子二人三脚でロクロを回す河本さん親子を
菊池さんが訪ねました。

今回お話をうかがったのは

河本賢治KENJI KAWAMOTO

河本慶KEI KAWAMOTO

鳥取県中部の福光地区に、「福光焼」の工房を構える河本さん親子。蹴りロクロと登り窯で手間暇かけて作陶する作品はどれも佇まいが美しい。親子で面取りや色使いに違いが見られるのも魅力。

土に感謝して焼き続ける登り窯はお母さんのような存在

  • 河本

    うちにあるのは倒炎式の登り窯。倒炎式は炎が食器を包み込みながら焼くので、裏も表も均一に焼けるのが特徴なんです。だいたい一つの窯に800点から1000点ほど入ります。

  • 菊池

    1000点…!登り窯で焼くのは難しいんですか?

  • 河本

    難しいです。一度、粘土にしたものを焼いてしまうと、土に還るまでに長い年月がかかる。土を粗末にしないよう気をつけて焼くけれど、それでも30%くらいはダメになる。昔から土練り3年、ろくろ10年、窯焚き一生と言われるくらいですから、死ぬまでやってもわからない。だから面白いですよ。一回一回が真剣勝負です。

  • 菊池

    窯って生き物を扱うようなところがありますよね。なんだか龍みたいなイメージがあります。

  • 河本

    本当にそうですね。火を吹いてね。火の強いところは1280℃くらいあります。最後は人間の手の届かないところだから、火を入れたときは「どうぞ、よく焼けますように」と、手を合わせるんですよ。

  • 菊池

    河本さんは、なぜ登り窯にこだわっているんですか?

  • 河本

    自分で作ったものは、最後まで自分の手で焼いてあげたいから。釉薬が器に乗り移って、まるで器に自分の魂が入るような気がするんです。一番落ち着くのはね、窯にものが入ってるとき。お母さんのお腹の中に、赤ちゃんがいるような感じでしょうかね。火を止めたときに、焼き上がりの感じはだいたいわかるから、しばらくは窯も開けないんです。もうちょっと入っててって(笑)。

使う。育てる。眺める。食卓になじむ日常の器を目指して

  • 菊池

    河本さんは器にサインを入れないんですね。

  • 河本

    毎日使うものに、必要ないんじゃないかと思ってね。「サインがなくても、誰が作ったものかわかるものを作れ」と、師匠にもよく言われました。未だにできていませんが、地元らしさをもっと出したいと思って、車を走らせていろんなところに土を探しに行ったりしますよ。

  • 菊池

    土を探すというのは、どうやって?

  • 河本

    たとえば、工事現場を見つけたら、ちょっと入らせてもらって土を見るんです。使えるかどうかは、見ればわかりますから。そうやって探した地元の土が1/4入っています。元々、焼き物というのは土を求めて山に入って、そこで窯を作って焼いていた。窯に使う日干しレンガも同じ土を使って、自分たちで作るんです。だからこそ、地元らしさが出るし、それを地元の人に使ってもらうというのが本来のあり方。

  • 菊池

    その土地らしさというのは、民藝において一つのキーワードですね。私も旅先で出会った器を東京に持ち帰って使っているとき、ふと旅先の風景が思い浮かんだりすることがあるんです。そうすると、また行ってみたいなと思う。作品だけで完結しないというか、私は作り手ではないですが、実際に使うことで私も参加している気持ちになれるのがうれしいんです。

  • 河本

    買うということがプラスに働いてるんですね。私も展示会で賞をもらうより、台所で喜ばれたほうがよっぽどうれしい。これはいい器だと思って使っていても、使いづらいと自然と台所の奥にしまい込まれてしまう。でも、いいものは毎日でも手が届く。いつも食卓にあって、みんなに使ってもらえるものが民藝なんだろうと思います。

バタバタした毎日の中で、民藝の器でお茶をいただく貴重なひととき。そういう、ふーっとひと息つきたくなるような余韻も含めて、民藝なのかなと思う。陶器ってちょっとしたことで欠けたりするから、洗うときも丁寧にしなきゃいけないけど、だからこそ自分の暮らしに愛着を持てるし、気持ちもほぐれる。自分の生活全体がちょっと豊かになる感じ。器と、器と過ごす時間を、私はこれからも大事にしたい。

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