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鳥取を訪ねて

タルマーリー

野生の菌を使ったパン作りにのめり込み、
きれいな空気を求めて鳥取へたどり着いたという
自家製酵母パンと地ビールの店「タルマーリー」。
菊池さんもずっと会ってみたかったという
オーナーシェフの渡邉さんと熱く語らいました。

今回お話をうかがったのは

渡邉格ITARU WATANABE

自家製酵母パン&地ビール&カフェ「タルマーリー」のオーナーシェフ。自然豊かな智頭の里山の恵みを活かしたパンとビールづくりを通して、持続可能な食のあり方を表現している。

自然と向き合う動的なモノづくり 地域とつながる民藝的なパン

  • 菊池

    「民藝の100年」スペシャルページに寄せられている格さんのメッセージを興味深く読ませていただきました。そのなかに「動的なモノづくり」という言葉があったのですが、これはどういう意味なんでしょうか?

  • 渡邉

    端的にいうと、「モノづくりの根幹に自然を取り込む」ということです。
    自然の力の前では、人間は非常に無力です。私たちは空気中に浮遊している野生の菌からパンとビールを作っていますが、環境を整えて、最高の原材料を使っても、納得いくものができるのは、一年のうち2、3回程度。しかし、自然を相手に臨機応変に日々を重ねていると、次第に動的な思考や態度が身についてきて、点ではなく塊でものごとを捉えられるようになる。私はそれが一番重要なことだと思っているんです。

  • 菊池

    パン作りの根幹に、「菌」という自然がある。その自然に逆らっていないから、魅力あふれるパンができるんですね。

  • 渡邉

    はい。人はそっと自然に手を添えるだけ。大変ですが、時々感動するようなパンができるからやめられません(笑)。
    また、私たちは菌を採取して発酵条件を整えるために、工房内だけでなく、工房外の自然環境も整えていかなくてはいけないと思っています。豊かな里山を守っていくために、林業家のみなさんから間伐材を買って薪ストーブに使う、地元の農家さんが安心して無肥料・無農薬栽培ができるよう適正な価格で正しく取り引きをする、といったことをしています。

  • 菊池

    土地と密接に結びついたものづくりをされてるんですね!パンを作ることがよりよい地域社会と自然環境を作ることにつながって循環している。パンって民藝とは離れたところにあるように思えますが、渡邊さんはまさに民藝的思想の実践者だと感じます。

過去を丁寧に紡いで未来へそれが、いいモノづくりのスタート

  • 菊池

    以前、渡邉さんが「おいしくないものを作ってもいいんじゃないか」とおっしゃられているのを何かの本で読んで、すごく面白い!と思いました。

  • 渡邉

    今って、テクノロジーや情報の進化によって、各自が持っていた「おいしい」という感覚が画一化されてきているんですよね。感覚というのは曖昧だからこそ面白い。味が同質化してしまうと価格で競争するしかなくなって、どこかで歪みが出てしまう。だから、100%すべての人に、おいしいものでなくてもいいんじゃない?と思うわけです。

  • 菊池

    すごく勇気がある言葉だと思います。民藝も最初は「下手物」という言葉を使って、人々の注目を集めた。それと似ていますね。

  • 渡邉

    門外漢である私が語るのもおこがましいですが、私が民藝を一番評価したい部分はそこ。地域にある下手物の価値を上げるという活動をしていったところに、これからの社会を変えるヒントがあるような気がしています。過去を自省しながら、新しいものを作っていくという流れをつくるべき。
    柳宗悦さんが、民藝の様々な定義を立てながらも、後にその言葉に捉われるなと、逆説的なことを言ったりしているのも、自分で規定した言葉を乗り越えてアップデートしていくことこそ、いいモノづくりのスタートになると思ったからではないでしょうか。人も物も変化していくんだから、もっと柔らかな心を持てと。

  • 菊池

    なるほど。はっと目が覚めた気持ちです。

どこを旅しても、絶対あるのが喫茶店とパン屋さん。私は、その土地ならではの店主さんに会いに行くのが好きだ。人間的に面白い人が多くて、「タルマーリー」の渡邉さんも例にもれず。美しい智頭の自然の中で、渡邉さんとお話しながらパンとビールを味わっていると、時々こうやって自然の声を聞いて、自分の感覚をちゃんと取り戻すことって、とても大切だなと思った。

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  • 民藝の100年の楽しみ方