VISIT

鳥取を訪ねて

たくみ割烹店

料理も民藝運動の一環だと考えた吉田璋也は
昭和37年、郷土料理の店「たくみ割烹店」を開店。
今回、特別に当時のカレーを再現してもらい、
食と民藝の関係に迫ります。
食べる民藝とは一体?菊池さんも興味津々です!

今回お話をうかがったのは

阿部一郎ICHIRO ABE

「たくみ割烹店」店主。吉田璋也の精神を受け継ぎ、鳥取の食材を民藝の器で提供する。吉田璋也が考案したしゃぶしゃぶの元祖「鳥取和牛すすぎ鍋」など、名物メニューにファンも多い。

バーナード・リーチが考案した100年前のカレーを再現

  • 阿部

    はい、どうぞ!これが100年近く前、昭和初期にバーナード・リーチが鳥取の女学校で料理教室を開いた際に作ったカレーです。当時のレシピをもとに再現しました。

  • 菊池

    バーナード・リーチさんは陶芸家ですよね。なかなかお料理と結びつかないのですが…?

  • 阿部

    彼はイギリスの方ですから、西洋の料理を紹介してほしいと友人である吉田璋也に頼まれて教えたそうなんです。その頃、まだ日本にはカレーを食べる文化ってありませんでしたから。当時は「メリケン粉」と呼ばれていた小麦粉をバターで炒めて、飴色になるまで炒めた玉ねぎを加え、海老でとったスープで伸ばしながら作ってあります。

  • 菊池

    今のカレーとは随分違いますね。これはネギ?

  • 阿部

    はい、白ネギです。お野菜は白ネギと玉ねぎだけ。白ネギをカレーに入れるって珍しいと思いますが、鳥取の名産ですから、それで入れたのかもしれませんね。
    そして、こちらが当時の薬味です。一緒に食べるとおいしいですよ。チャツネ、干しぶどう、ミョウガ、クルミ、らっきょう、小松菜のバター焼き、ピーナッツが盛ってあります。

  • 菊池

    すごい、これだけでごちそうですね。では、早速いただきまーす!

吉田璋也が見出した「用の美」料理を盛りつけてこそ際立つ魅力

  • 菊池

    カレー、おいしいですね!欧風カレーとも家のカレーとも違うけれど、素朴で味わい深い。白ネギもすごく合います。バーナード・リーチさんや吉田璋也さんたちの民藝的な交流の中に、食という面があったのが面白いですね。

  • 阿部

    生活の中で食べることってとても大切なことですから、その周りを囲んでいる器やグラスといったものから民藝のよさを広げていこうと思ったようです。そこで、料理が大きなポイントの一つになったんじゃないでしょうか。

  • 菊池

    衣・食・住ですもんね。このカレーや薬味に使われている食材は、すべて鳥取のものなんですか?

  • 阿部

    海老以外はすべて鳥取のものです。当時は車海老を使っていたそうですから、海老も含めてすべて鳥取県産でした。その土地でとれたもので料理を作り、その土地で作った器に盛ってお出しするというのが吉田璋也さんの目的の一つだったと思いますよ。

  • 菊池

    なるほど。それが民藝を丸ごといただくということなんですね!

今回、再現していただいたカレーは、特別なものではなく、日常のカレーだった。飽きがこなくて、それぞれの家庭でアレンジして楽しめる、懐の広さを持ったカレー。そんなカレーを食べながらお話していると、境界線がないのが民藝的だなと思えてきた。器を買って完結するのではなく、料理を盛って、誰かと一緒に食べるところまで含めて民藝。今度、私もネギ入りのカレーを作ってみようっと。

  • そもそも民藝って?
  • 鳥取を訪ねて
  • 民藝の100年の楽しみ方