VISIT

鳥取を訪ねて

鳥取民藝美術館

次に、菊池さんは民藝のルーツを訪ねて鳥取へ。
鳥取は吉田璋也が新作民藝運動を興し、
美と生活が密接に結びついた民藝のまち。
まずは、吉田璋也が開設した鳥取民藝美術館から
菊池さんの民藝をめぐる旅がスタートします!

今回お話をうかがったのは

木谷清人KIYOHITO KITANI

1952年鳥取市生まれ。1975年早稲田大学理工学部建築学科卒業。1995年より(公財)鳥取民藝美術館常務理事。2011年より(公財)鳥取市文化財団理事長。

自らデザインも手がけた民藝のプロデューサー・吉田璋也

  • 菊池

    民藝を知っていくと、吉田璋也さんという方のお名前がたびたび登場します。鳥取出身ということですが、どういった方だったんでしょうか?

  • 木谷

    吉田璋也の師である柳宗悦は、古伊万里など明治中期以前の手仕事の美しいものを民藝として選んでいきました。それに対して吉田璋也は、柳宗悦が見出した「民藝の美」を、現代の自分たちの生活の中に取り入れていこうと提案した人です。
    たとえば、昔は陶器で作ったコーヒーカップはほとんどありませんでした。そこで、吉田璋也は日本に元々あった陶器でもって、自分たちの使いやすいものを新たにデザインしたんです。いわば新しい民藝を作っていったわけですね。この新作民藝運動をはじめたのが吉田璋也なんです。

  • 菊池

    プロデューサー的な目線を持った人物だったんですね!陶器のコーヒーカップがほとんど作られていない時代に、それを作ろうという発想が生まれるのは、作り手側としての目線と、生活のことを考えた使い手としての目線を持っていたということでしょうか。

  • 木谷

    まさにそうです。しかも、作って生産するだけではなく、販売するということまで考えた。そのために、お店を作らなくてはいけないということで、1932年、鳥取に日本で初めての民藝専門店「たくみ工芸店」を開くんです。翌年には西銀座に支店(現在の「銀座たくみ」)をつくり、東京にも進出していく。生産から流通、販売まで、全部をになった名プロデューサーだったんです。

伝統的な風をはらみながら未来へと続いていく

  • 菊池

    私は旅が好きで、その土地土地でしか出会えないようなものにとても魅力を感じてしまうんです。

  • 木谷

    歴史、伝統、風土など、その土地の風をはらんで作られたものは、自然と美しくなってしまうからではないでしょうか。柳宗悦はものづくりについて、自分の力だけを頼りにするのではなく、その土地に合った材料や技法を使うというのが大切で、風にまかせて帆を張ればいいんだと言っています。
    たとえば、牛ノ戸の染分皿ですが、これは元々黒と緑の染め分けではありませんでした。牛ノ戸にはない釉薬を使っているのを吉田璋也が見て、それではだめだから、元来の釉薬を使いなさいと言ったことで、黒と緑の染め分けになったんです。これは「将来牛の戸のものとして名を長く残すであろう」と柳が褒めた通り、今でも大変人気があります。

  • 菊池

    吉田璋也さんという方は、感度の高い方だったんですね。民藝と聞くと、ちょっと昔のものというイメージがありましたが、今の私たちの生活にもフィットして、見れば見るほど愛着が湧く。点で終わるのではなく、過去と今、そしてこれからの未来へとつながっていくものが民藝なんだと思えてきました。

  • 木谷

    吉田璋也のいた鳥取では、特にそうですね。さらに言えば、地元の器を使うことは、地元のよさに気づくきっかけにもなり、自然、文化、歴史といったものを守っていこうという考えにもつながっていくんです。「民藝というのは、生活を美しくすることです。生活を美しくすることは、社会を美しくし、よくすることです。だから、民藝は美による社会改革運動なんです」と吉田璋也も言ってるんですよ。

  • 菊池

    何を選ぶのか。何を大切にしていくのか。私たちにも委ねられているんですね。ものを選び、使うということそのものが意思表示につながるんだと思うと、なんだか背筋が伸びます…!

  • 木谷

    いえいえ、もっと気楽でいいですよ(笑)。ものを見るというのは、ぱっと見てかわいいな、気持ちいいな。それだけで十分なんです。使っているうちに民藝のよさが自然と体の中に染み込んでいって、ふと新たな気づきが生まれてくるときがありますから。自由であっていいんです。

自然の力に身をまかせて、無理のない形で作られたものの、説得力ある美しさ。かなり昔のものを見ても、今の自分の生活に取り入れたいなとワクワクする。そんな魅力が民藝にはある。ちなみに、鳥取民藝美術館のお向かいには、耳鼻咽喉科医だった吉田璋也さんが診察や手術を行っていた「旧吉田医院」がある。普段は非公開だけれど、特別公開していることもあるそうなので、鳥取に行かれる際はぜひチェックを。

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  • 民藝の100年の楽しみ方