エドガー・ドガ「バレエの授業」1873~76年、オルセー美術館 PhotoⒸRMN−Grand Palais(musée d'Orsay)/Adrien Didierjean/distributed by AMF

【目は語る】1月
アーティゾン美術館「パリ・オペラ座」展
総合芸術の殿堂

文:高階秀爾(たかしな・しゅうじ=大原美術館館長、美術評論家)

西洋美術

 オペラ座と言えば、パリ観光の目玉である。建築家シャルル・ガルニエの設計によるこのネオ・バロック様式の建物の前に立つと、まず2階部分のコリント式列柱回廊の整然とした快いリズム感が心を捉える。続いて見上げると、頭頂部のさらにその上に、エメ・ミレーの「アポロ」「詩」「音楽」の金色の群像彫刻が天に向かって燦然(さんぜん)と輝く。1階の入り口部分、完成当時物議をかもしたというカルポーの艶麗な裸婦群像に見守られて中へと進む。

 大階段を上って宏壮(こうそう)なグラン・フォワイエ(大休憩室)にはいると、まずポール・ボードリーの装飾壁画が目にはいる。ボードリーはローマ賞受賞者で、ローマでみっちり修業した優れた技量の持ち主である。そのボードリーがグラン・フォワイエの装飾壁画に苦心を重ねたのは、何よりも周囲のきらびやかな装飾と対抗するためであったろう。

 1964年には、文化大臣アンドレ・マルローの指示により、劇場内部のウジェーヌ・ルヌヴーの天井画がシャガールの色彩豊かな作品で覆い隠されて、華やかな雰囲気を生み出すこととなった。しかし一般の観光客は、ボードリーにもシャガールにもほとんど一顧も与えず、舞台のオペラやバレエに魅せられることになるであろう。

 現在、東京・京橋のアーティゾン美術館において「パリ・オペラ座―響き合う芸術の殿堂」と銘打った展覧会が開かれている。17世紀、太陽王ルイ14世によって設立されたオペラ座の歴史を、当時の版画や装飾壁画のための習作などを交えて辿(たど)った「序曲」と、17世紀、18世紀の舞台仕掛けや美術作品を対象とする「第Ⅰ幕」、19世紀前半のロマンティック・バレエを中心とする「第Ⅱ幕」、グランド・オペラの刷新やジャポニスムの流行を背景に作品や資料をまとめた「第Ⅲ幕」、20世紀、21世紀のバレエ・リュス、映画、ミュージカルなどの「第Ⅳ幕」、そして新しい「オペラ・バスティーユ」を紹介する「エピローグ」という内容構成である。

パリ・オペラ座(ガルニエ宮)外観ⒸJean−Pierre Delagarde/Opéra national de Paris

 展示品については、オペラ座やその演目から主題を得た絵画、彫刻作品が見事である。ドガの「バレエの授業」(オルセー美術館蔵)、マネの「オペラ座の仮面舞踏会」(米ナショナル・ギャラリー蔵)とバリトン歌手フォールの舞台姿を描いた2点の等身大以上の肖像画、カルポーの「ダンスの精霊」のブロンズ像2点(オルセー美術館蔵)などである。

 シャガールの「天井画のための最終習作」(ポンピドゥー・センター、国立近代美術館等蔵)は、直径1㍍40㌢の円形画面に、華麗な色彩と独特の幻想的音楽師の姿を配して目を楽しませてくれる。
 また、舞台装置、衣装、装飾品のデザインなども見逃せない。特にレオノール・フィニの「『タンホイザー』レジーヌ・クレスパンのためのエリーザベトの冠」(フランス国立図書館蔵)は、精妙巧緻の極みと言ってよい見事な表現で、見る者の息をのませる。

 建築、美術、工芸から音楽、舞踊、演劇まで、あらゆるジャンルにわたって豊麗多彩な美の世界を展開して見せる文字通り総合芸術の殿堂、それがパリ・オペラ座なのである。(2月5日まで)

2023年1月12日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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