カラヴァッジョ「音楽家たち」1597年 ニューヨーク、メトロポリタン美術館 RogersFund, 1952/52.81

【目は語る】1月メトロポリタン美術館展魅惑あふれる西洋絵画の粋

文:高階秀爾(たかしな・しゅうじ)(大原美術館館長、美術評論家)

西洋美術

 カラヴァッジョ「音楽家たち」、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール「女占い師」、フェルメール「信仰の寓意」、フランソワ・ブーシェ「ヴィーナスの化粧」、ポール・セザンヌ「リンゴと洋ナシのある静物」。西洋美術の愛好者なら、これらの作品題名を聞いただけで、画集や複製で見たその画面を容易に思い浮かべることができるであろう。いずれも屈指の名作である。

ポール・セザンヌ「リンゴと洋ナシのある静物」1891~92年ごろ ニューヨーク、メトロポリタン美術館 BequestofStephenC.Clark, 1960/61.101.3

 現在、大阪市立美術館において、この5点の名品(すべて日本初公開)を含む「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」が開かれている。内容は他に、作家名だけを挙げるなら、フラ・アンジェリコ、ラファエロ、クラーナハ(父)、ティツィアーノ、プッサン、レンブラント、ヴァトー、ターナー、クールベ、コロー、ドーミエ、ゴヤ、マネ、ドガ、ルノワール、シスレー、モネ、ゴーギャン、ゴッホなど、総計65点、何とも豪華で見応えのある展覧会である(16日まで、次いで2月9日から東京の国立新美術館に巡回)。

 米ニューヨーク市中心部、セントラルパーク東側五番街に堂々たる正面部を持つメトロポリタン美術館は、古代エジプト、ギリシャ・ローマ、イスラム、中世、ルネサンス、近代から現代にいたる美術作品、それも絵画彫刻ばかりではなく、家具、工芸、服飾、楽器、武具、甲冑(かっちゅう)などの部門の作品を数多く取りそろえている。中世美術に関しては、フランスの修道院建築をそっくりそのまま移築した分館まで建てた。アフリカ・オセアニア、中国、韓国、日本を対象とする東洋美術も充実した内容を誇っている。

 今回の展覧会は、この膨大なコレクションのなかから、特に西洋絵画に焦点を絞ったもので、展示構成としては、「I信仰とルネサンス」「Ⅱ絶対主義と啓蒙(けいもう)主義の時代」「Ⅲ革命と人々のための芸術」と、ほぼ時代の流れに沿った3部に分けられている。Iで扱われているのは「磔刑」「聖母子」、「羊飼いの礼拝」(エル・グレコ)など、キリスト教主題作品が中心だが、それと並んで古代ギリシャ・ローマ神話に基づくクラーナハ(父)の「パリスの審判」やティツィアーノの「ヴィーナスとアドニス」という名品が見逃せない。

 Ⅱが対象とする絶対王政のフランスでは、行政組織として確立された美術アカデミーの指導の下に、厳格な古典主義絵画(プッサン)、典雅な雅宴画(ヴァトー)、艶麗なロココ美術(ブーシェ)が展開される。同時に、早くから市民社会が成立していたオランダのレンブラントや、特に「ヴァニタス(虚栄)画」の巨匠ピーテル・クラース「髑髏と羽根ペンのある静物」の精緻な描写力が、次の時代へのつながりを示唆していて、注目に値する。

 Ⅲは、フランス革命後の国民国家フランスにおいて、クールベ、コローの「写実主義」から印象派、ポスト印象派へと華々しい成果を見せる。以上いずれの場合でも、どうしても会場に足を運んで行かずにはすまされない魅惑にあふれた展覧会である。

2022年1月13日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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