清水克悦、高橋善丸「山箱(YAMAHAKO)」

【KOGEI!】
プロセスを楽しむ形

文:外舘和子(とだて・かずこ=多摩美術大学教授)

工芸

 兵庫県の伊丹市立工芸センターが、昨年「市立伊丹ミュージアム」としてリニューアルオープンした。これに伴い、この施設が1998年から開催してきた伊丹国際クラフト展も3年ぶりに復活し、審査に赴いた。「クラフト」は、言葉としては英語のCraft(工芸)に由来するが、意味するところは、今日的な「工芸」とは異なる日本独特の用語である。現代作家の工芸は、オブジェを含め用途の有無を問わず、作家が自ら考案し、自身の手で素材や技術に根ざして制作する実材表現を指すのに対し、カタカナの「クラフト」は反復制作も視野に入れた実用品で、戦後、プロダクトデザインとも関係しながら発展してきた概念である。実用の工芸にも豊かな歴史を持つ日本らしい領域で、伊丹国際クラフト展は海外からも注目されてきた。

 同展は「酒器・酒盃(しゅはい)台」と「ジュエリー」を交互にテーマとして行われ、23回目の2022年は前者である。日本酒(清酒)発祥の地といわれる伊丹には、由緒ある酒蔵があり、表彰式も施設の一角にあるかつての酒蔵で行われた。

 公募のテーマに「酒器」のみならず「酒盃台」が加えられているのは、盃(さかずき)や徳利(とっくり)の形状や色、模様などの意匠のみを競うのでなく、盃を乗せる台などの宴(うたげ)を演出するものの提案も想定しているからである。例えば、今回の奨励賞受賞作「酒飾(さけかざり)」は、日本酒の一升瓶の肩に首飾りのようにかけてボトルを華やかに見せる、花をモチーフにした金工作品で、これまでにない酒器の関連アイテムであった。

 また、今回は独創的なアイデアや仕掛けのある酒器セットが目に付いた。伊丹賞受賞作「山箱」は、サイズ・形の異なる四つの器とそれらを乗せる台を組み合わせた酒器セットである。内側が赤く吉祥的な雰囲気もある。この酒器は、デザイナーと木工家の共同出品によるもので、木胎(もくたい)のシャープなフォルムの精度を上げ、狂いのないよう形を安定させるため、木工家は、素材の厳選に始まり時間をかけて研究を重ねた。盃の形状としても個性的だが、驚くべきは、宴が終わった後、全てのピースをパズルのように組み合わせると、木製のピラミッド型オブジェが一つできあがることである。つまり、この酒器はどこかに「収納」する必要がない。普段は例えばリビングの一角でクールなオブジェとして存在し、いざ宴の機会にはピラミッドを崩して使用し、宴が終われば再びピラミッドを築く行為も楽しめる。宴席そのものの楽しい時間だけでなく、宴の機会を待つ日常、その準備や片付けのプロセスなど、宴のある暮らしの全てに配慮された酒器なのである。

 コロナ禍でオンライン飲み会も普及したようだが、宴とは本来、準備も含め、対面で互いの所作や、やりとり込みで楽しむものであろう。この酒器セットを介して人々の会話が弾む様子が目に浮かぶ。酒器は、手に取るプロセスを通して人々の文化を形成していくのである。

2023年1月8日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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