「Co―ishiwara」飯碗(マルダイ窯 太田万弥)

【KOGEI!】 ベース・デザインからの創造

文:外舘和子(とだて・かずこ)(多摩美術大学教授)

工芸

 半世紀以上続いた日本クラフトデザイン協会が昨年解散した。量販店が無銘食器の販売を進める中、作家手作りの実用陶磁器は転機を迎えている。そうした状況下、日常食器の小石原(こいしわら)焼と茶陶の高取焼で知られる福岡県東峰村から陶器の新ブランドの監修を依頼され、昨年春から地元の陶芸家らと研究会を重ねた。課題は、飛び鉋(かんな)や刷毛目(はけめ)など同様の技法を用いる大分県の小鹿田(おんた)焼の方が知名度が高いこと、小石原の民窯イメージにより、ひとくくりに安価を求められることである。

 しかし小鹿田焼のいかにも民芸調のどっしりとしたイメージに比べ、小石原焼・高取焼は軽やかでモダンな傾向がある。それがこの地域の潜在力ではないか。今回、陶器の産地にあえて磁器のデザイナーの田上知之介を入れたのも、そうしたポテンシャルを読んだからである。磁器の感覚はこの地域の陶器の軽快さをより明確に引き出すに違いない。与えるよりも引き出すこと。これを新ブランドの目標とした。

 単によそからデザイナーを入れ、形と模様を指定し、地元の職人がそれを画一的に量産する通常のプロダクトデザインではなく、デザイナーが提示した石膏(せっこう)モデル、共通のコンセプトを、各陶芸家が自由に解釈、アレンジし、おのおのが得意の技法や装飾で表現を広げていく。この新しいプロダクトの方法を私は「ベース・デザイン」と名付けた。

 アイテムは幼児から大人まで成長に合わせて使えるサイズ違いの飯碗(わん)5客セット。並べるとサイズの大小に伴う色や模様の変化を楽しめ、重ねるとこれから開いていく花のつぼみを思わせる。東峰村は米どころでもあり、稲わらは釉薬(ゆうやく)の原材料になる。5客は重ねて杉箱に収め、ギフト仕様とした。桐(きり)箱ではなく杉材の箱としたのは、巨大な「行者杉」が東峰村のシンボルだからである。素材、機能、地域の特性の全てが無駄なくつながったSDGs(持続可能な開発目標)の発想もある。

 今回取り組んだ窯元7軒の試作は、研究会を重ねるごとにそれぞれの個性を拡張していった。連続的に鉋で点を刻む飛び鉋技法も、鉋の形、リズムや方向により千変万化する。刻んだくぼみに別な色釉を埋めればさらに変化がつく。模様だけでなく形についても独自のアレンジがなされ、例えば碗の曲面に水平な段を入れた凜々(りり)しい形の碗が生まれた。新ブランド名は「Co―ishiwara」。Coは共同、つまり東峰村の皆で取り組み、多様性を生むという意味である。碗の裏にはブランド共通印と各作家銘(または窯印)の両方を入れる。

 東峰村の陶芸家たちは、各自がベース・デザインを起点に新鮮な器を生み出した。創造力とは何かに反応する力でもある。果敢に反応する事で新たな自分を発見し、自らの創造性を高める。「共同」から多様性を生み出せたなら新ブランドのプロジェクトはひとまず成功である。

2022年5月8日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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