第32回創工会展(京都文化博物館)。手前が最高賞の橋詰里織の作品「あふる」

【KOGEI!】団体展の変貌

文:外舘和子(とだて・かずこ)(多摩美術大学教授)

工芸

 日本は世界に類のない団体展大国である。文展として始まった現在の日展をはじめ、工芸を含むものだけでも、国画会、新匠工芸会、日本工芸会、女流陶芸、あるいは日展系の分派団体などがあり、半世紀以上続く団体も少なくない。かつてさまざまな団体展は、官設展の権威に対抗する在野の自由な表現を主張する場であった。何より生業や商売ではなく表現者として制作する工芸作家を育て、人々に新たな作風や様式の誕生も知らせた。

 しかし若者の団体展離れが言われて久しい。世の中全体が高齢化し、会社が定年延長を奨励する昨今、美術団体の「高齢化」も特別なことではないかもしれない。また戦前とは異なり「好きなように」制作し発表することが当たり前となった現在、「団結」など不要、むしろ集団の人間関係を煩わしいと考える若者も多い。一方、昨今の街の画廊は若者に好意的で、美大在学中から出品の機会には事欠かない。わざわざ出品料を払って並べる必要を学生は感じ難いだろう。

 しかしながら一見恵まれているように見える現代は、ともすれば売れ筋の作品だけをもてはやし、作家自身が消耗品にされかねない危惧もある。純粋に自身の世界観を表現し、世に問うこと、第三者の客観的な批評を受けることが本来の工芸やアートの姿であり、作家の本質的成長にも必要だ。団体展はそうした場の一つであると同時に、作り手同士が忌憚(きたん)なく切磋琢磨(せっさたくま)する場でもある。

 今日そうした意義を若者らに伝えるべくさまざまな団体が工夫を凝らしつつある。例えば工芸美術創工会は、1987年に日展の森野泰明や今井政之ら京都を中心とする関西・中国地区在住の工芸作家により結成されたが、会長は1人の年長者が長年務めるというのではなく、毎年順番に会員が担当する。審査に会員は入らず学識者ら第三者のみで実施する。最高賞受賞者は翌年、別室で個展を開催することができ、会員推薦による若手作家のエリアでは、20~30代の数名がベテラン作家らとともに発表する。若手の挑戦的な姿勢と、ベテランの主張や完成度の高さは、双方にとって刺激になるであろう。

 昨年の第32回創工会展では、海外でも知られる藤野さち子が前年の最高賞受賞の権利で会場の一角で個展を開いた。また、日展系や無所属の作家だけでなく、日本工芸会所属の伝統工芸作家の出品も見られた。いわば創工会展で他流試合がなされているのである。最高齢出品者は100歳の染色作家・宮崎芳郎。受賞者4名は40~70代まで年齢の幅がある。

 熟年世代と若手が断絶せず、ヒエラルキーも作らず、同じ土俵で「競演」する創工会展に、どこかネガティブなニュアンスを持つ「高齢化社会」ではなく、ポジティブな「長寿社会」のあるべき方向性の一つを見た。

2022年3月13日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

シェアする