王清霜夫妻と「玉山長春」2021年 天然漆、丸金、消金粉 1縦120センチ、横240センチ

【KOGEI!】工芸の国際性と作家性

文:外舘和子(とだて・かずこ)(多摩美術大学教授)

工芸

 今年、韓国の清州工芸ビエンナーレ(Cheongju Craft Biennale2021)で、鑑賞主体の器から造形性の強いオブジェ、フィギュアのような作品まで幅広い表現が見られたように、今や工芸(Craft)は用途の有無に関係なく、〝作家が選んだ素材と作家自身の技術に根ざした創造的な表現〟を意味するようになった。では、近年、日本の作家が、工芸をあえてKogeiと表記したがるのはなぜか。

 日本の「工芸」は英語のCraftとほぼ同義だが、戦後の日本にはCraftとは異なる、実用量産の食器などを指すカタカナの「クラフト」という語があり、音の上ではこのカタカナのクラフトと英語のCraftが紛らわしい。これを区別する狙いが、2013年ごろから工芸作家たちが使い始めたKogeiにはある。さらに、Kogeiには、〝表現における作家性〟をより強調したいという日本の工芸作家たちの意図もあるようだ。

 例えば漆芸なら、蒔絵(まきえ)の箱であれ、絵画的なパネル作品であれ、作者が漆という素材の使用を前提に制作し、作者自身の漆芸技術で創意を盛り込んだ表現であるなら、それをKogeiと呼ぶ。その意味で、日本工芸会に所属する作家の「伝統工芸」も日展作家の「工芸美術」も包括する考え方である。

 だとすれば日本は活発化する海外の工芸状況も知る必要があろう。台湾では今年数え年で100歳になる王清霜の展覧会があり、筆者もオンラインの記念講演を行った。王は高度な漆芸技術を駆使して漆芸ならではの絵画的世界を築いてきた台湾の重要伝統工芸保存者、日本でいう重要無形文化財保持者(人間国宝)である。写実性と装飾性が見事に融合した王の漆絵は、独自の漆芸世界だ。日本の人間国宝は器物の表現が中心で、漆絵を手掛ける例はほぼ見られないという点で、日本の人間国宝は表現傾向がやや限定されているが、台湾の王は人間国宝にして漆絵のアーティストである。高度な技術と創造性を持つ工芸作家を顕彰・認定する制度そのものは日本が先行するが、認定の在りようは、台湾の方がより広い工芸観に立っている、あるいは日本のKogei観を先取りしているともいえる。

 筆者は時折欧米の工芸研究者から「なぜKogeiと呼びたいのか?」と尋ねられることがある。「無論Craftでも構わないが、工芸表現の作家性を強調したいのです」と答えているが、Kogeiの語が今後よい形で普及するか否かは内容次第であろう。フジヤマやゲイシャのように特定の視覚イメージがあるわけではなく、あくまで包括的な概念である以上、その実例の普及がその概念を決定していく。言葉は生き物である。外来語の押し付けではなく、Kogeiの中身が生きて発展・充実していく結果として、セラミックアート(陶芸)やラッカーアート(漆芸)など各種作家の工芸全体を意味する概念として浸透するかどうかは、何よりも実際の工芸作品の質と各作家の創造性にかかっている。

2021年11月14日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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