資料室にあるセゾン美術館(西武美術館)の図録=東京大駒場博物館で

 東京大駒場博物館(東京都目黒区)に、展覧会カタログに特化した珍しい資料室(閉架)がある。蔵書数は約2万1500点。教育・研究と連動したカタログ収集活動について取材した。

 資料室の扉を開けると、カタログが棚にぎっしりと収まっている。館ごとに整理されていて、企画展名を記した背表紙を見るだけで一つの館の営みと変遷が立ち上ってくるようだ。同館の折茂克哉助教は「バブル期に大型化し、近年はアートブックのようなものも多い」と話す。館報やポスター、チラシも集めており、セゾン美術館(東京・池袋)のように既に閉館した施設の資料はいっそう貴重だ。

 開室は2007年。他に東京・国立新美術館が戦後の国内展の図録を網羅的に収集しているが、資料室は教育・研究活動との密接な関わりを持ちつつ、博物館や文学館の資料も収集する点に特徴がある。

 年間200~300冊購入するという図録の選定過程はこうだ。大学院生による「院生委員会」が、その年の膨大な企画展をリスト化。学際的・学術的なものを厳選している。カタログは研究で使われるのはもちろん、今橋映子教授(比較文学・比較文化)の授業では、学部生が資料性やデザイン面など多様な観点から読み方を学んでいる。カタログの魅力について、①美しく楽しい本が誰でも安価で手に入る②展覧会を記録した学術的に重要な資料であり、今後の研究につながる--と今橋教授は説明する。

 さらに、17年からは同大や他大学の院生、教員らで作る「CatalTo(展覧会図録品評勝手連TOKYO)」が、1年間に刊行されたカタログを評し、表彰する会も開いている(現在は院生委員会やCatalTo活動を一時中断)。

 博物館では現在、新規収蔵分を実際に閲覧できる「美術展を本の世界で3」(24日まで)を開催。学生が選んだお気に入りの一冊にはカタログ評が添えられ、内容はもちろん、印刷の美しさなど本ならではの楽しみ方も教えてくれる。

 今橋教授は授業が教養学部の演習であることに触れ、「(学生には)小さな企画展であっても楽しみ、たとえ絵や文章を創作しなくても、カタログを購入することで文化芸術を担うような教養人になってほしい」と話した。一般利用は事前に相談を。

2022年6月12日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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