裏面に「1930」(年)と押印された第1期校舎の初期配置を示す青図=香里ヌヴェール学院中学校・高等学校提供

 日本のモダニズム建築に大きな影響を与えた建築家アントニン・レーモンド(1888~1976年)。代表作の一つ「聖母女学院」(現香里ヌヴェール学院、大阪府寝屋川市)で、1932年に完成した校舎の青焼き図面(青図)など300点以上の建築資料が見つかった。戦火をくぐり抜け、90年近く眠っていた資料と対面した京都工芸繊維大の松隈洋教授(近代建築史)は「設計図だけでなく、現場と設計事務所のコミュニケーションを示す指示書や電報も見つかり、レーモンド事務所が当時どのように仕事していたのかを読み解く上で第一級の資料」と評価する。

 レーモンドは旧帝国ホテルなどを設計した巨匠フランク・ロイド・ライトの弟子。21年の独立後に開設した設計事務所では前川国男らが学んだ。その前川も設計に関わった聖母女学院の校舎は鉄筋コンクリート造りで32年の完成後、34、37年に増築。戦時下の空白期を経て、戦後も増改築が繰り返された。校舎の一部は97年、国の登録文化財になっている。

 資料群は2回に分けて学校の倉庫で見つかった。まずは2020年11月、筒状に巻かれた大判の青図などが、21年11月には大量の設計資料が収められた木箱二つが新たに発見された。箱の中には、裏面に「1930」(年)と押印された第1期校舎の初期配置を示す青図=写真=をはじめ、設計事務所から現場に宛てた指示書や業者の施工図などが入っていた。レーモンドが29年に手がけた清心高等女学校(現ノートルダム清心女子大、岡山市)の校舎の青図も含まれていた。

 レーモンド設計事務所(東京)の三浦敏伸・代表取締役は「事務所に(青図の)一部の原図はあるが、青図そのものはなく大変貴重。これだけのお宝がよくぞ見つかったという驚きがある」と話す。資料を見つけた香里ヌヴェール学院中学校・高等学校の田村かすみ副校長は「90年にわたる人々の思いがこの建築を今に残した原動力。美しい青図はその象徴で貴重な遺産」と保存の必要性を訴える。

 木箱にあった膨大な資料の全容は不明で、今後の調査が待たれる。松隈教授は「このタイムカプセルには建築に注がれた当時の人々の熱意が詰まっている。生きた教材としてここで学ぶ生徒たちに伝えてほしい」と話している。

 

2022年3月20日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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