「樹齢670年 大湫の大杉」

 作品タイトルは「樹齢670年大湫(おおくて)の大杉」。なんともすごい名前だが、そもそもこれを建築と呼んでよいのか。岐阜県瑞浪市の大湫町の神社にかつて立っていた巨木が2020年の豪雨で倒れたことを受け、その一部を小さな宿場町のシンボルとして保存活用したプロジェクトである。

 それまで街を見守っていた高さ約40㍍の大杉は、境内の手前に根元から倒れ、鳥居を完全に破壊したが、幸い、人の被害はなかった。プロジェクトの実現にあたっては、クラウドファンディングで全国からの支援を集めながら、未来に向けて、地域住民によってどう残していくかが議論されている。

倒木によって壊れた鳥居は再建された

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 コンペによって選ばれた若手の建築家ユニット、ナノメートルアーキテクチャー(野中あつみ+三谷裕樹)は、5㍍にカットされた倒木を立て起こし、頂部にはコルテン鋼の円盤屋根、足元には鉄筋コンクリート造の基礎を加え、22年に完成した。高さは低くなったが、太い部分を残したので、幹周は11㍍あり、モノとしての圧倒的な存在感をもつ。

 当然、内部空間はないため、これは建築なのか、彫刻的なモニュメントなのか、という問いを投げかける。また興味深いのは、レプリカとして再生された陸前高田の奇跡の一本松や、時間を止めて壊れた状態を徹底的に維持する原爆ドームと違い、ゆっくりと劣化し、変化することを受け入れながら、保存していく方針を決めたことである。

 なるほど、雨風を完全にしのぐわけではないから、少しずつ朽ちていくだろう。とはいえ、すぐに消えるわけではなく、メンテナンスしながら、住民が守り続ければ、数百年はもつことを考えると、その辺の公共建築よりもはるかに長く残るはずだ。数十年で壊されてしまう現代建築にはない超時間的な存在である。

 ナノメートルアーキテクチャーは、ここでの経験を生かし、25年大阪・関西万博の「サテライトスタジオ」を設計する予定だ。すなわち、各地の倒木、もしくは使い道がなく「困った木」を集め、これらを積むことによって屋根を支える複数の柱がつくられる。会期終了後には再生された木を活用する仕組みも提案するという。

2024年3月28日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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