高槻城公園芸術文化劇場の外観
高槻城公園芸術文化劇場の外観

【評・建築】
日建設計 高槻城公園芸術文化劇場 地域の杉材を徹底活用

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 関西で日建設計が手がけたホールをいくつか見学する機会を得た。震災で完成が約10年遅れ、復興のシンボルになった兵庫県立芸術文化センター(2005年)は、レンガや木の素材感、中庭、そして花びら形の断面のPC(プレストレストコンクリート)列柱が印象的である。枚方市総合文化芸術センター(21年)は、植栽が連なる水平感が強い低いファサードをもち、隙間(すきま)が入るレンガの積み方や、挿入された緑の中庭群がほどよく開放感を創出していた。

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 そして昨年オープンしたのが、高さを抑えつつ、大小のボックスをちりばめながら公園と一体化し、あちこちに出入り口をもつ高槻城公園芸術文化劇場である。しかもホワイエ、スタジオ、カフェなど、ほとんどがガラス張りのため、透明感にあふれる。注目すべきは、高槻の杉材を徹底的に活用したこと。柱の部位ごとの特性を考慮し、縦ルーバー(格子)としては、杉材の外周を内装に、節がある部分を小ホールに、杉材の内側の部分を外装に用いた。これらをランダムな揺らぎを与えながら並べ、自然な感覚を生みだす。なお、ホール部分の外壁は、素材がコンクリートに変わるものの、縦筋の凹凸部がルーバーと等間隔になるよう意匠的に反復させ、連続性を与える。木の芯持材(木の中心を含む木材)は、2万7000個の小さい木キューブに変え、ピクセルのように、大ホールの壁から天井を覆い、高い音響効果に加え、忘れがたい体験をもたらす。

木キューブに覆われた大ホール
木キューブに覆われた大ホール

 さらに一部の余ったルーバー材は、ベンチや台などの什器(じゅうき)に転用された。エントランスやホワイエなどで柱をなくし、構造的に踏ん張る空間もあるが、そこはあまり強調せず、高槻の杜(もり)としての建築を優先している。通常のホールは公演時以外は閉鎖的になりがちだが、平常時も通り抜けができ、隣接する二つの学校の生徒も立ち寄るだろう。

 実は上記のホールはいずれも日建設計の江副(えぞえ)敏史が関わっている。以前、彼が担当した大阪の弁護士会館(06年)やフェスティバルホール(12年)、神戸国際会館(1999年)、福山市中央図書館(08年)、ホールを備えたアクリエひめじ(21年)も見学したが、やはり独特の素材感、クラシカルな趣、開放感をあわせもつ。個人名を冠したアトリエ系だけでなく、大手の設計組織の建築にも、こうした個性が読みとれるのは興味深い。

2024年2月22日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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