年末年始にハンガリーのブダペストと福岡県において、藤本壮介による近作を見学した。ホールや博物館から構成された音楽の家(2021年)と、太宰府天満宮の仮殿(23年)である。
彼は大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーをつとめるほか、国内では北海道、宮城県、東京都、海外ではフランス、イギリス、中国などでプロジェクトを手がけた。改めて、その軌跡をたどると、当初はジグザグに部屋が展開する青森県立美術館コンペ案(00年)や、渦巻き型に書架が続く武蔵野美術大図書館(10年)など、ユニークな構成の平面プランで注目されたが、近年は屋根の造形が特徴的である。
やはり外観の要となる屋根はわかりやすく、建築の専門家以外にもアピールしやすい部位だろう。例えば、宮城・石巻のマルホンまきあーとテラス(21年)は、白い家型による大小の屋根が街並みのように続くシルエットが印象的だった。また万博会場の木造リングは、シンボルとなる大屋根をもち、その上を来場者がぐるりと歩く。
■ ■
音楽の家は、ブダペストの中心というべき市民公園において国家プロジェクトとして建設された。林立する細い柱によって支えられ、浮遊感のある屋根は、おおむね円形だが、音の波をイメージし、輪郭はゆらぎをもつ。見上げると、抽象化された葉っぱのような幾何学的なパターンが天井をおおう。
また有機的な造形の屋根を約100個の孔(あな)が貫通し、その下に光を導く。音楽の家が公園の樹木と混じりあう風景は、建築というよりも、さながら巨大な黄色いキノコだった。
太宰府天満宮の仮殿は、文字通り、本殿の大改修にあたって、約3年間の期間限定として登場したものである。一般的に現代における神社の建築は寺院に比べて保守的な傾向をもつが、ここはすでにアート作品を境内に点在させたように、ラジカルなデザインを許容した。
本殿手前に設置された仮殿は湾曲する屋根をもち、その上に大量の樹木がのっている。菅原道真公を慕う梅の木が一夜のうちに大宰府に飛んできた飛梅(とびうめ)伝説から着想を得たという。ともあれ、屋根の上の盛り盛りになった植栽は、インスタ映えの絶好のスポットである。
2024年1月25日 毎日新聞・東京夕刊 掲載