【評・建築】川合健二 コルゲートハウス
コルゲートハウスの外観。特徴的なハニカム状になった壁

【評・建築】
川合健二 コルゲートハウス
 「型破り」体感できる宿に

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 一昨年、黒川紀章が設計した長野県の別荘カプセルハウスK(1973年)に泊まれるようになったことが話題になったが、今度は愛知県豊橋市に存在する伝説の住宅、川合健二の自邸コルゲートハウス(66年)も宿泊施設として生まれ変わった。

 ただし、川合はいわゆる建築家とは違い、エンジニアとして旧東京都庁舎など、丹下健三の作品の設備設計を担当した人物である。ゆえに、型破りにオリジナルな発想で、実験的な自邸をセルフビルドで建設した。通常は土木の暗きょ用に使う鋼板のコルゲートパイプをぐるっと巻いたシリンダー状の外殻をもち、砂利をもった土面に置いているため、コンクリートの基礎がない。

 また正面と背面の長円形の壁は、ハニカム状の構造になっており、その一部は窓として使われ、今見ても未来的なデザインである。住宅とは三角屋根をもち、直交座標で壁が構成されるといった固定観念を捨て、工業部材をシンプルな原理によって組み立てることで、原初的な家を出現させた。川合邸の構法は、石山修武の幻庵(75年)のほか、遠藤秀平の90年代以降の作品などにも影響を与えている。

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【評・建築】川合健二 コルゲートハウス
屋内の吹き抜け空間

 10年前、筆者があいちトリエンナーレ2013の芸術監督を務めたとき、建築公開のプログラムを企画した際、初めて川合邸を見学した。当時は夫が残した大量の技術系洋書に囲まれながら、妻の川合花子が暮らしており、前衛的な空間に半世紀の生活感が刻まれていた。また屋外に研究のためにエンジンを抜いた自動車が数台放置されていたSF的な風景も強烈に印象に残る。

 その後、居住者を失った川合邸は、冨田円や福島大我らの企画によって、一棟貸しの宿として改修・整理され、以前はモノが多過ぎてわかりにくかった大きな吹き抜け空間が体感できる。つまり、建設当初の状態に近づいた。今回、川合邸でのトークイベントに際して、実際に1泊する機会を得たが、コルゲートの湾曲した内壁に包まれた部屋は居心地が良かった。

 なお、周囲には、農園やビオトープ、移築・保存した木造家屋も整備されている。かつてエネルギーの技術にとりくんでいた川合の思想は、自然環境の中で新しい意味を獲得しようとしている。

2023年9月28日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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