カフェからは絶景が望める
カフェからは絶景が望める

【評・建築】
韓国・ミュージアムSAN
「安藤忠雄展 青春」 地形と文化の相乗空間

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 韓国・原州にあるミュージアムSAN(2013年完成)で開催されている「安藤忠雄展 青春」に足を運んだ(会期は7月30日まで)。ソウルから約1時間半、山中にたち、自然の風景に囲まれた美術館も、安藤が設計している。

 まず驚かされたのは、決して交通の便が良いとは言えない場所にもかかわらず、平日でも多くの来場者で賑(にぎ)わっていたことだ。韓国のCMやアイドルのプロモーションビデオに使われたことも一因かもしれないが、カフェからの眺めが抜群に良く、建築空間もインスタ映えするフォト・スポットが多い。が、来場者が熱心に展示を鑑賞している様子を観察すると、安藤人気が高いことがよくわかる。

 建築の大きな特徴は、以下の通り。彼が得意とする打ち放しのコンクリートと、韓国産の坡州石(ぱじゅせき)を組み合わせたテクスチャー。花畑、水庭、新羅古墳から触発された石庭などを挟みながら、奥に進んでいくアプローチ。そして正方形、三角形、円形などの幾何学的な形態や、マウンド状の瞑想(めいそう)空間などをちりばめる。韓国の文化を組み込みながら、自然と地形の好条件を生かした建築だ。

印象的な光が差し込む瞑想空間
印象的な光が差し込む瞑想空間

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 大規模な安藤展は世界を巡回したもので、筆者は東京とパリでも見ていたが、今回の会場では展覧会のタイトル「青春」にちなむ大きな青いリンゴのオブジェを設置し、後半のパートで韓国におけるプロジェクトの模型やドローイングを追加していた。いずれも場所と対話する済州島のポンテ博物館(12年完成)、ソウルのLGアーツセンター(同22年)やJCCクリエーティブセンター(同14年)などである。ミュージアムSANは、製紙会社のハンソル文化財団が設立したもので、美術館をつくる際に以前の紙の博物館を統合しており、紙の歴史を展示するエリアも興味深い。

 常設のアートとしては、円形の空間に設置されるナムジュン・パイクほか、最後に登場するジェームズ・タレルの特殊な光を体験する空間群などがあり、とくに後者は、これだけまとまった作品数をもつ美術館はめずらしい。ちなみに、筆者の訪問時、美術館の導入部において安藤による新しい光の空間を建設中だった。完成は近いらしく、新しい魅力がもうひとつ増える。

2023年5月25日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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