別々の三つの建物を再構築した「ベコハウス」=ヒトレン提供

【評・建築】
一般社団法人ヒトレン新事務所「ベコハウス」
保存超える創造的解釈

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 防災と災害復興支援の活動を行う一般社団法人ヒトレンの新事務所ベコハウス(2023年)が仙台に完成した。設計は、吉川彰布+松本純一郎設計事務所が担当している。ヒトレンとは、311を受けて東北の復興に関わったアメリカのアーキテクチャー・フォー・ヒューマニティ(AFH)に協力していた吉川が、AFHが解散した後、その精神を引き継いで結成された組織である。

 ベコハウスは、三つの建築が合体するという特異なプロセスによってつくられた。すなわち、まず被災者のための移動可能な最小限の居住ユニット・モデルのCAPSULE BOX(22年)が建設された後、仙台のはりゅうウッドスタジオが設計した都市計画の家Ⅱ(03年)と、難波和彦らによる岩手・釜石の復興支援施設KAMAISHIの箱(11年)が移築され、ひとつの建築にまとめられたのである。

 都市計画の家Ⅱは持ち主の死去により解体が決定され、KAMAISHIの箱も当初の役割を終えたことを受け、吉川は両者を引きとることを決意したという。なお、解体直前の都市計画の家Ⅱは、ヒトレンの事務所として使われていた。

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内部の様子。「都市計画の家Ⅱ」で居室棟だった部分=ヒトレン提供

 KAMAISHIの箱とCAPSULE BOXは、いずれも再利用の可能性を意識した縦ログ構法を特徴とする。また都市計画の家Ⅱは、私有地内に外部の人が通り抜けられる道を提供したり、三角形プランの居室棟と直方体のトイレ・浴室棟を完全に分離したりする実験住宅だった。

 今回、これらを移築しているが、いわゆる保存とは違う。都市計画の家Ⅱはすべての部材を再利用しているわけではなく、屋根と木格子を残しつつ、断熱性能を飛躍的に向上させたり、水まわりは離れとせず、本体と接合させて階段状の空間に変えたりしている。またKAMAISHIの箱には、床やベランダを追加し、CAPSULE BOXは基礎を打った。

 もちろん、これらは文化財ではない。だからこそ、ベコハウスでは異なる文脈における創造的な解釈を通して、大胆に変容させ、その結果、キメラのように、新しい生命を獲得した。なお、都市計画の家Ⅱの通り抜けという特殊な性質は、土手沿いの敷地を選んだことで、ベコハウスの真横を散歩したり、ランニングしたりする人が行き交う風景となって受け継がれている。

2023年3月15日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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