ASによる千光寺頂上展望台「PEAK」

【評・建築】広島・尾道に現代建築開放的なホテルや展望台

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 広島県の尾道といえば、古寺が多い坂の街というイメージだが、次々に興味深い現代建築が登場している。まずJR尾道駅(2019年完成)は、アトリエ・ワンがデザイン監修したものだ。そこから西へ徒歩5分ほどで、1940年代の倉庫を商業施設+サイクリスト向けのホテルにリノベーションしたONOMICHI U2(同14年)に着く。サポーズ・デザイン・オフィスが設計を担当し、古さを生かした空間は驚くほどカッコ良い。

スタジオ・ムンバイが基本設計に関わったホテル「LOG」の空間

 駅の反対側では、坂の途中に60年代の普通のアパートをホテルに改修したLOG(同18年)が登場した。これはインドを拠点とするスタジオ・ムンバイが基本設計に関わり、多くの壁を撤去しながら、空間を大きくし、全体を地域に対して開放的な場に変えている。そして派手な形態操作をすることなく、優れたセンスによって新しい素材や色彩を与えるだけで、高価格帯のホテルとして再生させた。客室数をわずか6室におさえ、ゆったりとした共有スペースを持ち、それが空間に余裕をもたらす。

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 ロープウエーで千光寺公園に足を運ぶと、今年オープンした新しい現代建築が待ち構えている。AS(青木淳+品川雅俊)による千光寺頂上展望台「PEAK」だ。もちろん、ここから風景を眺めることを目的とする施設だが、そこで歩くことが楽しい空間でもある。すなわち、幅3・6メートルに対し、長さが63メートルに及ぶ一直線の展望デッキと大きな円を描くゆるい階段から基本的に構成され、塔状のエレベーターもつく。細い柱によって宙に浮く展望デッキは風景に飛び込むような印象を与え、旋回する階段は歩くごとに角度を変えると同時に、その形状は旧展望台が円筒形だった記憶を継承している。頂上でとどまるのではなく、動きそのものを建築化したというべきか。

 青木は螺旋(らせん)スロープを歩きながら、まわりの眺望を楽しむ潟博物館(新潟市=同97年)も設計したが、さらに要素が減った分、動きの建築が純化している。来場者は遠くの風景を撮影するだけでなく、デッキや階段のあちこちで記念写真を撮っていた。

 なお、同公園には、安藤忠雄が新館を手がけた尾道市立美術館(同02年)もあり、和風の外観をもつ旧館との対比が際立つ。

2022年9月21日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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