道路の延長のような「アートストリート」

【評・建築】
山本理顕 名古屋造形大新キャンパス
刺激生む空間の共有

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 知人の教員をたずねて、名古屋市中心部に移転した名古屋造形大の新キャンパスを訪れた。まず驚かされるのが、塀がなく、いわゆる正門がないこと。道路の延長のように、アスファルトの地面が続き、展示などを行う小さい白い箱をちりばめている。さらに、それらを4本の太い脚に支えられた巨大なボリュームが覆う。

4階の大空間を横断するストリート

 実は敷地が地下鉄の名城公園駅の真上であり、荷重制限を受けて、線路部分を避けるように、メインの空間が高く持ち上げられている。構造体にもなっている格子状の白い壁がひたすら連続する外観も印象的だ。ちなみに、4本の脚には、それぞれギャラリーと学食▽図書館▽ホールと事務室▽体育館――が入り、2階に教室を置く。上階に進むと、3階では各種の工房が連続するエリア、そして4階は壁で仕切られない、広大なフロアにスタジオ群や見通しが良いストリートが配されている。いずれも1辺約100メートルの正方形プランという長さを生かした空間だ。また4階は四方に奥行きのあるテラスを張りだし、公園の向かいという立地ゆえに、名古屋城も見える。

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 設計を担当した山本理顕は、これまでも北海道・函館や埼玉などで大学の施設を手がけ、革新的な建築計画を得意としていたが、名古屋造形大では今春まで学長もつとめることになり、教育理念と空間の一致を徹底したことが特筆される。すなわち、ばらばらに閉じこもるのではなく、空間を共有することで、美術表現▽映像文学▽地域社会圏▽空間作法▽情報表現――の五つの領域に再編された表現分野が互いの活動を意識し、刺激しあうこと。その結果、横断的なコラボレーションも誘発するだろう。

 また地域社会に開かれたキャンパスによって、近隣の集合住宅や商店街と連携していくこと。そもそも地上階の小建築群や上階のストリートは、都市空間のような雰囲気をもつが、いずれ周囲の街に浸透することが期待されるだろう。何よりも名古屋造形大は、白いグリッドを反復する建築を通じて、都市に対する圧倒的な存在感を示している。

 だが、それはまわりを威圧し、孤立するものではない。新しい教育の場をつくり、都市環境を改善してくための街の延長としてのキャンパスなのだ。

2022年8月17日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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