厚みのある軒先がユーモラスな外観

【評・建築】シェルターインクルーシブプレイス コパル個性認める遊び心

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 今春オープンした山形の児童遊戯施設、シェルターインクルーシブプレイス コパル(以下、コパルと表記)を訪れた。障害の有無に関係なく、すべての子どもが楽しめる無料の公共施設である。まず遠くからコパルを見ると、屋根全体がうねる丘のようなランドスケープになっており、蔵王連峰の山並みと呼応する。建築面積は3000平米以上あり、想像以上に大きかったが、威圧感はなく、むしろ愛らしさを獲得していた。

 例えば、通常、軒先は細く収めるとシャープだが、逆に厚みを与えることで、ユーモラスに感じられる。内部も、曲面によって連続的な空間が展開し、地面のレベルよりも低く沈めた体育館と大型の遊戯場がゆるやかにつながる。床面もあちこちで傾斜し、移動のためのスロープ、すべり台、クライミングなどの機能をもつ。

コパルの体育館。ゆるやかなスロープが接続している

 天井は木製ドーム、家具も木を用い、やわらかな印象を増幅していた。体育館の横長の開口部から外を見ると、車道を隠しつつ、自然の風景が目に入る。再び、外に出ると、まわりには人工的な地形による広場がちりばめられていた。

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 コパルは、建築、外構、遊具が一体となって、様々(さまざま)な遊びを誘発するような空間だ。民間が公共施設の運営に関わるPFI方式のプロポーザルコンペによって、設計者に選ばれたo+h(大西麻貴+百田有希)は、すでに障害のある人たちが働く様々な居場所を設けたグッドジョブ!センター香芝(2016年、奈良県香芝市)を手がけている。

 今回は、ワークショップを通じて、専門家や行政の意見をとり入れ、o+hにとって初めて本格的にコンピューターで複雑な形状を設計した挑戦的な作品となった。現場の工事では同市の木造建築を専門とするシェルター社らと創造的な協働作業を行いながら、三次元曲面のための鉄骨トラス(三角形状に組んだ骨組み)や木構造を組み立てた。改めて建築において、設計・施工・運営の三者が良い関係をもつ重要性を感じさせる。なお、スロープ、手すり、誘導ブロック、素材の選択では、ただバリアーを解消するのではなく、遊び心をもってデザインされ、これらも建築のキャラクターになっている。まさに多様な個性を認めるインクルーシブの考え方と同じようにつくられたのだ。

2022年6月15日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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