グリーンスプリングスのビオトープ

【評・建築】東京・立川「GREEN SPRINGS」「立川市庁舎」緑ある公共性の高い場

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 ゴールデンウイークのよく晴れた日、東京都立川市のJR立川駅北側のエリアを訪れた。2020年にオープンした「GREEN SPRINGS(グリーンスプリングス)」は、南北約400メートル、東西約100メートルの敷地においてオフィス、ホテル、3000人収容のホール、子供のための美術館と屋内広場、商業施設などで構成された巨大な複合施設だ。特筆すべきは建築ではない部分、すなわち巨大な中庭のようなランドスケープだろう。

東京都立川市の市庁舎

 地上レベルの中央を駐車場とし、自動車が走る道路と切り離された人工地盤となる2階レベルには、X形に交わる印象的な街路を設定し、ファウンテン(噴水)、ビオトープ、芝生広場などを組み込む。「ランドスケープ・プラス」が手がけたデザインである。また東側は空中を走る多摩都市モノレールがちらっと見え、子供が遊んでいた長大なカスケード(階段状の滝)と並走する階段を上ると、屋上レベルから隣接する国営昭和記念公園の風景が広がる。ともあれ、2階の公園のような空間は、驚くほどに多くの家族連れでにぎわっていた。飲食店や「リビングルーム」と呼ぶ共用部も囲んでいたが、別にお金を払わなくても、それぞれが自由に過ごすことができる。公共空間でよく見かける排除ベンチの類いもない。グリーンスプリングスは、地元の立飛ホールディングスが計画した民間の施設だが、きわめて公共性の高い場を実現している。

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 もうひとつ、近くにある野沢正光と山下設計による立川市庁舎(2010年)にも足を運んだ。これは米軍基地の跡地に建てられたものだが、市民が投票する公開コンペで案が選ばれ、ワークショップを重ねて実現されたものである。インスタ映えする派手なファサードの外観は持たない。低層の大平面▽室内や地下階にまで自然光を導く中庭▽アトリウムの吹き抜け▽西日の負荷対策を兼ねるひさしが深い段状のテラス▽外気を導入する風の塔▽ペアガラス・太陽電池・雨水などの利用▽屋上緑化――など、環境配慮型の建築である。休日だったが、部分的に内部やテラスは開放されており、特に徹底的に緑化された屋上は全体をぐるっと散歩することができた。立川市庁舎は免震構造も導入し、長く使われるサステナブルな公共建築をめざしている。

2022年5月18日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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