コンペの審査を担当したことがきっかけで、その会場となった大和ハウスグループの社員が使う奈良の研修所、みらい価値共創センター「コトクリエ」(2021年)を見学する機会を得た。基本計画とデザイン監修を担当したのは、ユニークな空間のオフィス(浜松市・ROKIグローバル・イノベーション・センターなど)や大学施設(山口県下関市・梅光学院大の新校舎)で知られる小堀哲夫(1971年生まれ)である。
コトクリエは会社の工場エリアの端部に位置し、全長185㍍の細長いボリュームをもつ。プランは不定形な輪郭になっており、あえてたとえるならギターのような形状とでも言うべきか。壁や天井は三次元曲面が多いために、コンピュータでモデルをつくり、設計・生産・施工を一貫して管理するモデリング手法、BIMを活用して建設された。
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設計にあたっては、社員が参加するワークショップを経て、「エンドレスにつながること」や「生命体のように進化・成長し続ける」などの考え方が導かれたという。その結果、壁で部屋を仕切る通常の形式とは違い、スロープが多い、流動的な空間が連続する建築となった。
もっとも、全体が長いために、それぞれに吹き抜けをもつ三つのエリアを設定し、空間が大きくなりすぎないよう、適度なサイズに分節している。中央の集成材のルーバーで囲まれた「太陽のホール」は約500名を収容し、閉じた場ではなく、まわりに様々なたまり場を設けた。南側の「風のパティオ」は、円形の中庭のまわりにカフェや研修室を配している。そして北側の「水のサロン」は、平城宮の地層にあった井戸から着想し、細い吹き抜けの底に静かな場がつくられた。
3、4階の宿泊ゾーンは、全員のマスターリビングのまわりに、20人単位で語りあう共有空間を6カ所配し、さらにそれぞれの奥に小さい就寝用の個室が並ぶ。すなわち、コトクリエでは、1日の異なる時間帯での場面、また大人数から小人数まで対応する多様な居場所が用意されている。それが立体的な空間として立ち現れているのが楽しい。決まり切った研修をこなす箱ではなく、この空間をいかに使い倒していくのか、それを考えるところから、新しい発想をうながす建築である。
2022年3月16日 毎日新聞・東京夕刊 掲載