施設の外観=マルホンまきあーとテラス提供

【評・建築】 藤本壮介 マルホンまきあーとテラス スケール横断の空間構成

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 1年ぶりに宮城県石巻市を訪れた。今回は南浜の津波復興祈念公園が完成し、震災遺構として残る予定の旧門脇小学校は整備中だった。また河川堤防の上には、萬代基介による二つの東屋(あずまや)が登場し、小さいながらも、土木と風景の関係を調律することを試みている。今後、8㌔にわたって12棟がつくられるという。

 そして「3・11」から10年という節目を迎え、新しいランドマークが姿をあらわした。被災した市民会館と博物館の機能を複合しつつ、スタジオや研修室など、市民のコミュニティー施設を加えた、「マルホンまきあーとテラス」である。設計したのは、世界各地でプロジェクトを手がけ、2025年大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーを担当する期待の建築家、藤本壮介だ。

 橋を渡ると、背景の山と調和しながら、大小の三角屋根をもつ家型のシルエットが連なる特徴的な外観が視界に入る。倉庫群、あるいは子供が描くプリミティブな家のかたちが並んでいるように見えるが、白色と無装飾によって抽象化され、街の集合的な記憶の拠(よ)り所(どころ)にも感じられる印象的な建築だ。

巨大ドアと、見上げた天井=五十嵐太郎氏撮影

 内部に入ると、圧巻の大空間である。並列する各施設の手前のロビーが160㍍も続くが、ときには屈曲しつつ、袖看板のようなサインやバルコニーが飛びだし、ここは街のストリートのようだ。これを東に進むと、大ホールのホワイエに変容し、大階段を経て、ぐるりとまわり込み、2階席へのアクセスになる。こうした奥行き方向への伸びと突きあたりの開口から見える山の風景、またホールのフライタワーと同じ天井高26㍍に及ぶロビーと空からの採光などは、ヨーロッパの洗練された現代建築を想起させるダイナミックな空間の構成とスケール感だった。一方で家具的な操作やさまざまな照明など、小さいスケールの遊び心もあわせもつ。これは日本的なかわいいデザインかもしれない。

 大ホールの舞台の外側には高さ10㍍の巨大な扉があるのだが、内側は通常サイズの扉になっており、アリスの物語のように、スケールを横断する。あちこちで小さな居場所を見つけることができると同時に、大空間ならではの使い方も可能な公共建築である。

2021年8月18日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

シェアする