ジャイアントルーム=五十嵐太郎氏撮影

【評・建築】
八戸市美術館
市民とともに成長

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 青森県八戸市は、八戸ポータルミュージアムはっち(2011年)や八戸ブックセンター(16年)などの文化施設やアート事業によってまちづくりを推進しており、昨年11月、西澤徹夫、PRINT AND BUILD(浅子佳英)、森純平の設計によって新しい八戸市美術館がオープンした。

 もっとも、美術館らしいシンボリックな外観はなく、むしろ入ってすぐの天井高が約17㍍に及ぶジャイアントルームが特徴である。ここは一方的に教えるエデュケーションというよりも、互いに学び、創作のきっかけとなるラーニングの活動、展示、イベントなどを行う場としてつくられた。

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 その空間は、上部の側面から自然光を導き、八戸の工業地帯を想起させる工場のようなスケール感をもつが、安東陽子がデザインした巨大なカーテンによって、適度なサイズに分節したり、状況に応じて場を変えたりすることができる。またプランは、基本的に廊下を介さず、ジャイアントルームと専門的な個室群(展示室となるホワイトキューブ、映像展示を想定したブラックキューブ、スタジオ、ワークショップルームなど)が直結し、連携して使うことも可能だ。

テキスタイルデザイナーの安東陽子氏が手がけたカーテン=五十嵐太郎氏撮影

 設計チームは、展示空間を得意とする西澤、商空間のデザインやリサーチ・編集業も行う浅子、ラーニングを実践する森によって、今回のプロジェクトのために結成された。そして国内外の事例調査を踏まえ、あらゆる細部を議論しつつデザインし、使われ方のシミュレーションも徹底的に行ったという。ゆえに、建築家の個性を表現するための作品ではない。ちなみに、将来的にジェンダーレスに対応できるトイレの設置も画期的だろう。

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 館長をつとめることになった建築計画学の佐藤慎也は、「もの」の展示から「ひと」の活動や「こと」を生みだす方向性を掲げている。すなわち、印象派やピカソなどの豪華な作品を並べるような、神殿としての美術館とは違い、地方都市の市民の活動の拠点となる新しいタイプの美術館だ。実際、開館してから、こんな使い方をしたいといった様々な意見が寄せられている。これは完成して終わりではなく、今後どのように使い方を発見していくかによって、市民とともに成長する建築なのだ。

2022年01月19日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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