【展覧会】
TCAA2022-24 受賞記念展
社会のなかの身体

文:高橋咲子(毎日新聞記者)

現代美術

 中堅アーティストを対象にした現代美術の賞「Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)」(主催・東京都、トーキョーアーツアンドスペース)。4回目の受賞記念展は、サエボーグ(1981年生まれ)「I WAS MADE FOR LOVING YOU」、津田道子さん(80年生まれ)「Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる」の二つから成る。歴史へのまなざしがストレートに表れていた過去3回と趣は異なるものの、今年も見逃せない展示となっている。

 2人の展示をつなぐのは、社会における身体。サエボーグは、おもちゃ箱のような毒々しいファンタジー空間を巨大なサイズで仮設した。雌豚や害虫といったゴム製のボディースーツを着てパフォーマンスしてきたサエボーグが今回選んだのは犬「サエドッグ」。ステージでパフォーマンスする「愛らしい」仕草のサエドッグに鑑賞者は吸い寄せられて、頭をなでたり、ほおずりしたり。巨大な玩具箱のなかで、踊らされるように愛玩し、される行為が繰り広げられる。

サエボーグの展示で、着ぐるみの犬に手を差し出す鑑賞者

 映像やパフォーマンスを組み合わせて制作してきた津田さん。新作の一つ「カメラさん、こんにちは」は、子供のころに初めてビデオカメラが来た日に自宅で撮影した映像を基にした。本来は津田さんと両親の3人の映像だが、10以上あるモニターには、その3役を老若男女が入れ替わりつつ演じる姿が映されている。

津田道子さん「カメラさん、こんにちは」の展示風景

 そのなかで、家族のなにげないふるまいに違和感を覚えるとしたら。長い通路に設置された「振り返る」や、「生活の条件」、過去作の「あたたとわなし、家族」も含めて、作品には、鑑賞者の姿や外の世界が映り込むような繊細な仕掛けが用いられる。見る・見られる行為を意識させつつ、社会のなかで作り上げられた身体=私の存在に気づかせる。東京・木場の東京都現代美術館で7月7日まで。

2024年6月3日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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