釘町彰さんによるインスタレーション「From the Land of Men」の展示風景=アートフロントギャラリー提供
釘町彰さんによるインスタレーション「From the Land of Men」の展示風景=アートフロントギャラリー提供

【展覧会】地球が刻んだ時間の躍動感 東京・代官山で釘町彰さん個展

文:平林由梨(毎日新聞記者)

インスタレーション

日本画

 パリを拠点に、日本画による風景表現を探る釘町彰さん(1968年生まれ)が東京・代官山のアートフロントギャラリー(03・3476・4869)で個展「From the Land of Men」を開いている。山の斜面や切り立った崖の岩肌を丹念な筆致で写し取ったモノクロの絵画は、人類の誕生よりはるか前から地球が刻んできた時間に想像をいざなう。

 多摩美術大で日本画を修めた後、パリ第8大でメディアアートを学んだ釘町さん。本展では新作の「Air」シリーズをはじめとする絵画8点を展示すると共に、絵画と映像を組み合わせたインスタレーションにも取り組んだ。

インスタレーションの一部。絵画に映像を投影している=アートフロントギャラリー提供
インスタレーションの一部。絵画に映像を投影している=アートフロントギャラリー提供

 作品のモチーフにする切り立った山々の風景は自ら出かけて見つける。アイスランド、スイス、フランス、イタリアと、車などの中からビデオカメラを長回しし、撮影した映像を基に描く。目的地はあえて定めない。「あてもないのに探し続ける。でも絶対に出合う」。そんな偶然に身を委ねるなかで見いだすものを大切にするという。

 釘町さんの絵画を特徴づける重要な作業に下地作りがある。一度、くしゃくしゃにして伸ばした和紙にまず、墨を5層ほど重ねる。さらにその上に貝殻をつぶして粉にした胡粉(ごふん)を十数層、薄く塗り重ねる。前に立つと包み込まれるように感じる冷たい空気や湿り気、光や奥行きはこうした一連の作業に由来するのだろう。

 そして岩絵の具で風景をかたどっていく。緻密で真に迫る表現は一見、写真のようにも見えるが、「手を動かしていると自分が消える。その瞬間が積み重なっていくと、写真とは異なる絵になっていく」と釘町さん。和紙の凹凸や絵の具の重なりが生む彫刻的な立体感や、描き込みの粗密によって生じる躍動感は絵画ならではのものだろう。

 縦約2・4㍍、横約3・6㍍の大作に、これまで撮りためてきた映像を重ねて投影するなどしたインスタレーションは、絵画が並ぶホワイトキューブではなく黒壁の空間を用いて展示した。外光を取り入れる大きな窓はスクリーンで塞いだ。ランダムに点灯する照明と、かすかに響くピアノや雑踏の音響と共に、刻々と変化する映像と絵画が見る人を包み込む作品だ。

 展覧会名は、仏の作家サン・テグジュペリの著作『人間の土地』から引用したそうだ。荒涼とした大地を飛行機から見下ろしたテグジュペリは、そのエッセーのなかで人間の命と営みのはかなさを浮かび上がらせた。釘町さんは「地球の歴史に比べたら、人類が登場した後の時間はごく短いものに過ぎない。その長い時間のスパンを再確認させてくれるのが、私が描く風景」と語る。25日まで。

2024年2月19日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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