「プーチン大統領の肖像」(4点組、2023年)

【展覧会】福田美蘭―美術って、なに?名画×現在 知の実験

文:高橋咲子(毎日新聞記者)

現代美術

 福田美蘭(1963年生まれ)の展示を見ていると、知的なゲームをしかけられている気分になる。「名画」を成り立たせているものに言及しながら、ウイットに富む。しかも現代と切り結び、名作が遠い存在ではないと気づかせてくれる。

 既存のイメージを取り込む手法は一貫している。安井賞を最年少で受賞した年に描かれた「緑の巨人」(89年)。時代とイメージの関係は、30年後の今を見透かしているようだ。東日本大震災の直後に描かれた悲母観音の連作。展示される「秋」(2012年)はいわずと知れた狩野芳崖の同名作を下敷きにし、災禍を経験した私たちにしみじみと迫ってくる。

 本展では、30年超にわたる試みを総覧できる。最新作として並ぶのはプーチン・ロシア大統領の姿。昨年の「日本の中のマネ」展にもあったゼレンスキー・ウクライナ大統領の肖像画に続く渦中の人だが、まず名画への関心が先にあったという。福田が注目したのはモディリアニ。プーチン大統領の底知れなさを反映するような青い目と、入れ物としての肉体がモディリアニと共振するとき、精神と肉体のちぐはぐさがいっそう照らされる。名古屋市美術館で19日まで。

2023年11月6日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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