「ポートレート」シリーズの展示風景
「ポートレート」シリーズの展示風景

 世界的に活躍する気鋭の美術家、井田幸昌さんの個展「Panta Rhei―パンタ・レイ―世界が存在する限り」が、京都市京セラ美術館(京都市左京区)で開かれている。国内の美術館では初めての展覧会で、故郷の米子市美術館(鳥取県)に続く開催。身近な人や著名人を描く「ポートレート」シリーズなどの代表作をはじめ、約350点を展示する。

 井田さんは1990年生まれ。
2019年に東京芸術大大学院油画を修了した。在学中からロンドンで個展を開くなど国内外で作品を発表。21年には実業家の前沢友作さんが、井田さんの油彩画を国際宇宙ステーションに持ち込んだことで話題を呼んだ。

 「パンタ・レイ」は「万物は流転する」を意味する言葉。井田さんの制作テーマである「一期一会」にも通じ、移ろいゆく時の中で感じたリアリティーをさまざまに形にしてきたことを表現した。

 冒頭を飾るのは「ポートレート」シリーズ。力強い筆致で厚く塗られた作品は、近くで見ると絵の具のかたまりにしか見えないが、距離を取ると人物の顔に見えてくる。友人であれ著名人であれ、自身に影響を与えた人物を描く同シリーズ。新作の「Maurice de Vlaminck」(23年)は、17歳の時、本展の会場・京都市美術館でその絵を見たことが画家を志すきっかけとなったという、フォービズムの画家・ブラマンクを描いた。

木彫の展示室には、荒々しく削り出され彩色された10体の作品が並ぶ=京都市左京区で
木彫の展示室には、荒々しく削り出され彩色された10体の作品が並ぶ=京都市左京区で

 荒々しく削り出され彩色を施された木彫作品は、絵画と彫刻を自由に行き来する井田さんならではの作品だ。「立体として彫り上げたものにペイントして絵画に戻し、また壊して3Dに戻す。それを繰り返して2Dと3Dの間の絶妙なバランスを探っている」と井田さん。向き合ったり、そっぽを向いたりして配置された大きな頭部は、人間同士のさまざまな関係性を想起させる。12月3日まで。

2023年10月30日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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