【展覧会】横尾忠則 寒山百得 古典を変奏、超時空の旅
マネの「草上の昼食」をほうふつさせる「2022-03-24」(2022年、右)

【展覧会】
横尾忠則 寒山百得
古典を変奏、超時空の旅

文:平林由梨(毎日新聞記者)

現代美術

 アスリートのごとく筆を動かし、次々とカンバスを彩った。現代美術家、横尾忠則(1936年生まれ)が約1年の間に風のごとく描き上げた計102点が並ぶ東京・上野の東京国立博物館表慶館は、高揚感と多幸感にあふれている。12月3日まで。

【展覧会】横尾忠則 寒山百得 古典を変奏、超時空の旅
「2021-09-21_2」(21年)

 全作品に登場するのは、中国・天台山に住みついたとされる伝説上の人物、寒山と拾得。浮世離れしたその風変わりな生き様は悟りの境地を象徴する画題として広く描かれてきた。

 そんな古典的モチーフを横尾は再解釈した。寒山と拾得、それぞれのアイコンである経巻とほうきをトイレットペーパーと掃除機に変換。新型コロナウイルス禍でアトリエに籠もらざるを得ないなか、二人に時空を超えた旅をさせた。イメージは次々と展開し、結果的に画業で最大のシリーズとなった。

 87歳を迎えた横尾は近年、座って描くことが増えたという。画面の絵の具に粗密はあるが、生乾きにも見える絵肌と相まってみずみずしい。色と線は作品ごとに変奏を重ねていき、ころころ変わる二人の表情は基本的にやんちゃで明るい。ところが時々、ぽっかりと開いた空洞のような目で見返してくるものもあってどきっとする。

 マネの「草上の昼食」をはじめ、名作を引用した作品がいくつも見つかる。こっちはセザンヌ?モンドリアン?と元ネタを想像しながらタッチや色遣いを見るのも楽しい。タイトルを含めキャプションは一切なく、付されているのは制作した日付とおぼしき数列だけ。本展を担当した同館の松嶋雅人・調査研究課長は「自由に見て感じてほしい。横尾は今回、頭ではなく筋肉で考え、湧き上がったものをカンバスにぶつけた」と話す。いくつになっても枯れることのない創作への欲望に、見る人は励まされるに違いない。

 隣の本館では11月5日まで、「東京国立博物館の寒山拾得図―伝説の風狂僧への憧れ―」で、中国・元時代から室町時代にかけて描かれた「寒山拾得図」などが見られる。

2023年10月2日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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