日本一の歓楽街、東京・歌舞伎町。アーティスト・コレクティブ「Chim↑Pom from Smappa!Group(以下、チンポム)」は今回、キャバレーや純喫茶、カラオケ店として数年前まで営業を続けた「王城ビル」を舞台に作品を手がけた。ビルは築約60年の、西欧の城を模した5階建て。歌舞伎町の守護神・弁財天を祭る小さな公園やソープランドに囲まれている。

「王城ビル」。チンポムのエリイは「奈落をお裾分けする」と語る=東京都新宿区歌舞伎町で
「王城ビル」。チンポムのエリイは「奈落をお裾分けする」と語る=東京都新宿区歌舞伎町で

 これまでも渋谷や高円寺、六本木といった街中で作品を発表し、人間の欲望をあぶり出してきたチンポム。歌舞伎町では4回目のプロジェクトになる。チンポムの卯城竜太も名を連ねる「歌舞伎町アートセンター構想委員会」の一員で、祖父がこのビルを建てたオーナー一家の方山堯(たかし)が「人々が交歓、交流し、新しいものが生まれる場になれば」と思い描き、実現した。

 見どころは、火災によって閉ざされていた吹き抜けを30年ぶりに開け、屋上の床まで破ってビルを貫通させた「奈落」。そこをゆっくりと上下する「セリ」にはサーチライトが搭載された。夜空に放つ一筋の光を見上げると、黄ばんだ壁や床、むき出しのコンクリートと共にビルが見てきた歴史と一体になるようだ。

奈落から外に向かって放たれるサーチライトの光=東京都新宿区歌舞伎町で
奈落から外に向かって放たれるサーチライトの光=東京都新宿区歌舞伎町で

 屋上には「光は新宿より」と記した大看板を掲げた。戦後、焼けた新宿の地を踏みしめ、電柱を建て、闇市をひらいた「関東尾津組」のスローガンだという。在日朝鮮人3世のポールダンサーKUMIや車椅子ダンサーのかんばらけんた、カラスやネズミのメークを自らに施すダンサー平位蛙らのパフォーマンス映像など、作品は全館にわたる。歌舞伎町の混沌(こんとん)を煮詰めたような空間が出現した。

 ビルを出るころには現代社会が「多様性」をうたう一方で街を土地の記憶と切り離してきた矛盾に改めて思い至るだろう。卯城の「歌舞伎町はキャパシティーがひろい。みんな無関心でいてくれる」という言葉が印象に残った。そんな街で懸命に生き抜く人々の記録でもある。10月1日まで。

2023年9月25日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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