「鹿文蓋付大ゴブレット」19世紀前半、ボヘミア、町田市立博物館所蔵

 ◇透明感引き立てる彫刻

 無色透明なガラスの輝きを一層引き立てるグラビール彫刻は、ボヘミアン・グラスを代表する技法の一つである。

 17世紀ボヘミア地方で周辺地域に広がる森林資源を利用したカリガラスの開発が進むと、その硬質で輝度の高いガラスの特性を活かすように厚手のガラス器に彫刻が施された。

 グラインダーでガラス器の表面を彫刻するグラビールは、元は水晶やその他宝石加工の技術をガラスに応用したものである。石、金属、コルクなど、大きさ、厚さ、素材もさまざまな数十種の研削用円盤を巧みに使い分けて生み出される造形は、ガラス器の表面で命を与えられ、輝き始め、神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の庇護の下その技術は磨かれていった。

 この作品は、ガラスの表面だけに色を着けるステイニング技法で器全体が赤く着色され、杯身(はいしん)中央の森に憩う鹿の群れと、器全体の濃淡のある草花の装飾がグラビール彫刻で描き出されている。

INFORMATION

特別企画展「ヴェネチア、プラハ、パリ- 三都ガラス物語」

<会期>2024年1月8日(月)まで。午前10時~午後5時半(入館は同5時まで)。会期中無休
<会場>箱根ガラスの森美術館(神奈川県箱根町仙石原 電話0460・86・3111)
    https://www.hakone-garasunomori.jp
<入館料>大人1800円、高校・大学生1300円、小・中学生600円

主催:箱根ガラスの森美術館、毎日新聞社
後援:箱根町
協力:箱根DMO(一般財団法人箱根町観光協会)、小田急グループ

2023年8月29日 毎日新聞・神奈川版 掲載

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