トークショーでは、監修者の山下裕二さん(左)や最年長の前原冬樹さん(右奥から2人目)、最年少の福田亨さん(右奥)が作品について語った=大阪市阿倍野区で、加古信志撮影
トークショーでは、監修者の山下裕二さん(左)や最年長の前原冬樹さん(右奥から2人目)、最年少の福田亨さん(右奥)が作品について語った=大阪市阿倍野区で、加古信志撮影

◇大阪・阿倍野で9月3日まで

 驚きの技による精巧な工芸作品を集めた展覧会「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」が、あべのハルカス美術館(大阪市阿倍野区)で開かれている。開幕日の7月1日にあったトークイベントには、出品作家最年長の前原冬樹さん(1962年生まれ)と最年少の福田亨さん(1994年生まれ)が登場。本展を監修した明治学院大教授の山下裕二さんが、2人の〝神業〟の秘密に迫った。

こう見えて一木造り 前原冬樹「<一刻>トタンに釘、板に鎹」2022年、木彫
こう見えて一木造り 前原冬樹「<一刻>トタンに釘、板に鎹」2022年、木彫
素材生かし無着色 福田亨「Niwa―カタクリ」2023年、木彫
素材生かし無着色 福田亨「Niwa―カタクリ」2023年、木彫
異色の元ボクサー・前原冬樹さん
異色の元ボクサー・前原冬樹さん

 トークは作品の写真をスライドで見ながら進められた。前原さんはプロボクサーなどを経て、32歳で東京芸術大絵画科油画専攻に入学した異色の経歴の持ち主。今回の出品作の中で「すさまじい労力なのに、最もわかってもらいにくい」と山下さんが紹介したのが、「<一刻>トタンに釘、板に鎹(かすがい)」と題した作品だ。

 板に打ち付けられた、さびて変色した一片のトタン。実は一木造りだ。トタンが浮いた部分は、オリジナルの薄いノコギリを差し入れて彫り進めたという。「ギリギリどこまでいけるか。どんどん力を弱めて、ちょっとずつ。毎日それをやってました」と前原さん。板のひび割れは、素材にあったものと彫ったものが混在し「自分でも久しぶりに見ると、どっちかわからなくなる」と明かした。

前原冬樹「<一刻>グローブとボール」2022年、木彫
前原冬樹「<一刻>グローブとボール」2022年、木彫

 「<一刻>グローブとボール」を紹介中、山下さんが作品と現物を見間違い、舌を巻く場面も。前原さんの作品について「長い時間放置され朽ち果てる寸前のものを彫っている。時間そのものを彫りだしていると言える」と山下さん。前原さんも「その場にずっと居続けた時間の力、朽ち際に発する強さや迫力を感じます」と語った。

出品作家最年少・福田亨さ
出品作家最年少・福田亨さん

 福田さんは「立体木象嵌(ぞうがん)」という新たな技法を確立した。立体的に細かい木片をパズルのようにはめ込んでいく。美術工芸高校に在学中、象嵌という言葉を知らないまま、はめ込むという技法に挑戦したのがはじまりという。前原さんのこだわりが「一木造り」なら、福田さんのこだわりは「無着色」。すべて素材の木の色を生かし、美しいチョウや花を表現している。

 本展に向けた新作「Niwa-カタクリ」でも、国内外の木材を駆使してカタクリの花とチョウを形作った。チョウは木に少し厚みを残した段階で羽の模様となるパーツをはめ込み、彫っていくという。山下さんが注目したのは作品に残された彫り跡。「木彫であるという主張で、わざと残しているの?」と尋ねられた福田さんは、「そうです。木であることが僕としては重要なので」と答えていた。

福田亨「吸水」(部分)2022年、木彫
福田亨「吸水」(部分)2022年、木彫
監修者・山下裕二さん
監修者・山下裕二さん

 高校時代から前原さんに憧れていたという福田さん。「今回ご一緒させてもらえるのは信じられない体験」と喜ぶ一方で、前原さんの作品について「これできる?」と聞かれると、「相当時間がかかりそうです」と回答。「できないとは言わないねえ」と山下さんと前原さんがうなると、会場は笑いに包まれた。

 作品の写真を見ながら、時折「信じられない」「こんなことやるかね」と感嘆の声を漏らしていた山下さん。本展に出品した17人の現代作家を「アスリートのように誰もできないことに挑戦し続けている、素晴らしい作家たちです」と称賛し、トークを締めくくった。

INFORMATION

<会期> 9月3日(日)まで。無休。入館は、火~金曜は午前10時~午後7時半▽土~月曜と祝日は午前10時~午後5時半
<会場> あべのハルカス美術館(大阪市阿倍野区阿倍野筋1、あべのハルカス16階 06・4399・9050)
<観覧料> 一般1600(1400)円▽大高生1200(1000)円▽中小生500(300)円。カッコ内は15人以上の団体料金
 おやこ割引 親子、祖父母と孫など複数世代の入館でそれぞれ当日料金から100円引き
 フォトイベント「撮らNIGHT!映えNIGHT!」7月28日(金)午後6~8時(入館は7時半まで)は、エリア制限なく全作品撮影自由

 閉館後の貸し切りイベント「親子で楽しむ、超絶技巧!」7月29日(土)、8月11日(金・祝)午後6時~7時半。各日40人、最大20組限定(先着順)。学芸員によるギャラリートークと親子で楽しむ鑑賞シート付き。事前にチケットの購入が必要<会場>あべのハルカス美術館展示室 <料金>親子券3000円(一般1人と中小生1人のセット券)。追加で参加する人がいる場合は追加券(一般1500円、中小生400円)をあわせて購入(最大2枚まで)<販売場所>セブンチケット(セブンコード101-568)
 ※イベントの詳細や最新情報は、同館公式サイト(https://www.aham.jp/ )をご確認ください。

 主催 あべのハルカス美術館、毎日新聞社、MBSテレビ
 協賛 大和ハウス工業
 協力 清水三年坂美術館
 監修 山下裕二(明治学院大学教授)
 企画協力 広瀬麻美(浅野研究所)

2023年7月27日 毎日新聞・大阪朝刊 掲載

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