青池保子「エロイカより愛をこめて」No.10「グラス・ターゲット」SECT.1 ⾒開き 『プリンセス』1981年1⽉号 秋田書店蔵 ©Aoike Yasuko(Akitashoten)

 特別展「漫画家生活60周年記念 青池保子展 Contrail 航跡のかがやき」が7月15日から神戸市立小磯記念美術館で開催される。本展の見どころや青池さん作品の魅力について、同館学芸員の金井紀子さんに語ってもらった。

 

 ◇独創性と緻密さ 原画300点   

 青池保子さん(山口県下関市出身)のデビューは1963年、中学3年生の時でした。独創的な物語、優れたデッサン力による華やかな絵柄は人々を魅了してきました。「エロイカより愛をこめて」をはじめ、美術や歴史を題材にした漫画が続々とヒットし、今年、漫画家生活60周年を迎えます。

 「エル・アルコン―鷹―」に続き、第20回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した「アルカサル―王城―」は宝塚歌劇で舞台化され、親子二代にわたるファンが増えています。また「修道士ファルコ」や「ケルン市警オド」など中世に生きる人々を活写した作品も、高く評価されています。

 本展は当館で初開催の漫画原画展です。秋田書店の全面的なご協力を得て、そのコレクションより厳選した作品で画業をたどります。カラー原画と、今まで展示の機会が少なかったモノクロ原画を含めた300点以上を、8章構成で紹介します。

 

青池保子「イブの息⼦たち」PART6 第5話扉絵 『プリンセス』1979年7⽉号 秋田書店蔵 ©Aoike Yasuko(Akitashoten)

 展示はデビュー作「さよならナネット」の原画から始まります。第1、2章では初期の作品を、雑誌資料も含めてたどるとともに、少女漫画界に衝撃を与えた「イブの息子たち」については美しいカラー扉絵と、歴史上の有名人物たちがくりひろげる抱腹絶倒の物語をモノクロ原画で紹介します。

 73年にフリー転身後は、自分の描きたいテーマに取り組みました。第3、4章ではダークヒーロー、ティリアンを主人公とする「エル・アルコン―鷹―」や「トラファルガー」など海をゆく男たちの姿を、また、「光と影の伝説」として、イザベルⅠ世など興味を抱いた世界史上の人物を絵ものがたりとして描いた作品を紹介します。華麗なる歴史の虚と実をご覧ください。

青池保子「アルカサル―王城―」第2部第1話扉絵 『ビバプリンセス』1988年12⽉25⽇号 秋田書店蔵 ©Aoike Yasuko(Akitashoten)
青池保子「修道⼠ファルコ」Chap.Ⅴ-4 扉絵 『メロディ』2001年5⽉号 秋田書店蔵 ©Aoike Yasuko(Akitashoten)

 第5章では84年から24年間かけ完結させた、イベリア半島統一を目指したドン・ペドロ王の生涯をたどる「アルカサル-王城-」、第6章では90年代以降に描いた創作「修道士ファルコ」「ケルン市警オド」を紹介します。これらは中世3部作と呼ばれ、数百年前の欧州社会と人々の暮らしが、異なる階層(王、修道士、官吏)の視点で描かれます。とくに「アルカサル-王城-」のカラー原画は円熟期の作で、構成力・繊細な表現・深みのある色彩は美術品の趣があります。

 第7、8章では、76年に連載開始の最大の人気作「エロイカより愛をこめて」を、冷戦前・後の2章に分けて展示します。美術品泥棒エロイカことイギリス人グローリア伯爵と、脇役ながらスーパーヒーローとなったドイツ人NATO情報将校エーベルバッハ少佐が、世界を駆け巡り活躍する物語です。関連作品の「Z」「魔弾の射手」、作者のことばなどもあわせて紹介します。

 カラー原画は緻密で美しく圧倒されます。モノクロ原画からは仕事の過程がよく伝わります。ぜひ美術館でオリジナルをご覧ください。

INFORMATION

特別展「漫画家生活60周年記念 青池保子展 Contrail 航跡のかがやき」

<会期>7月15日(土)~9月24日(日)。月曜休館(祝日の場合は翌火曜休館)。開館時間は10~17時(入場は閉館の30分前まで)。
<会場>神戸市立小磯記念美術館(神戸市東灘区向洋町中5、078・857・5880)
<入館料>一般1000円(800円)▽大学生500円(2500円)▽高校生以下無料※カッコ内は20名以上の団体料金。
※詳細は美術館公式ホームページをご覧ください。
https://www.city.kobe.lg.jp/kanko/bunka/bunkashisetsu/koisogallery/

※コレクション企画展示「小磯良平作品選Ⅱ」も同時開催。

主  催:神戸市立小磯記念美術館、毎日新聞社
特別協力:秋田書店、大阪府立中央図書館 国際児童文学館

会場ショップでは、公式画集(5940円、税込み)や展覧会オリジナルグッズを販売。通販サイト「まいにち書房」(https://www.mainichi.store/)でも画集と一部グッズを購入可。

2023年7月14日 毎日新聞・大阪朝刊 掲載

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