近代の大阪で生まれた日本画に光を当てた展覧会「大阪の日本画」が15日から東京ステーションギャラリー(東京都千代田区)で始まる。50人を超える画家たちの個性豊かな作品約150点が全国から集結した。同ギャラリーの田中〓子学芸室長が見どころを解説する。
◇貴重な機会、完成度高い作品選抜 学芸室長、見どころ解説
「大阪の日本画」という内容の分かりやすい展覧会名にして、思い浮かぶ作品のイメージの少なさはいかがなものか。それも仕方がない。大都会大阪にして日本画家の活躍はなかったのかと思えるほどに、その世界が紹介される機会が少なかった。
それでも、近年再評価された北野恒富(1880~1947年)は比較的メジャーかもしれない。彼は大正から昭和にかけては今より評価が高く、例えば日本の女性を見事に描いた日本画家は誰なのかという問いがあれば、京都の上村松園(1875~1949年)や東京の鏑木清方(1878~1972年)と並び、大阪の北野恒富が挙がったほどだった。
恒富は記憶に残る人物画を描き、加えて大阪の日本画界の変革を促した。流派を超えた交流、そして日本画の発表や研さんの場を作り、後進たちの成長へも貢献した。彼の弟子たちは師とは違う趣を放つ完成度の高い作品を残し、なかでも中村貞以(1900~82年)は近代的で爽やかな女性像が支持され、第一人者となっていった。また、恒富の作った白耀社の展覧会には、大阪を代表する女性画家の島成園(1892~1970年)や木谷千種(1895~1947年)とその一門も参加し、実力が競われたものだった。
また、大阪では漢詩や漢文の教養を身につけた人が多く、もともと文人画(南画)がもてはやされてきた。そのため、各地から優れた文人画家が集まり、中国趣味の絵画が描かれ、色も用いられた。女性画家も活躍し、例えば河邊青蘭(1868~1931年)は格式ある上品な作品を描き、弟子も抱えていた。
そして、矢野橋村(1890~1965年)は、中国趣味の文人画の土壌のうえに、日本の風土に基づく新しい南画を作り、定着させようとした。彼の個性的で迫力ある水墨画には驚かれるかもしれない。
なお、京都の四条派の流れをくむ船場派の画家たちも活躍した。彼らは大阪の人々の暮らしや好みに寄り添い、なじみ深い題材で、穏やかで肩肘の張らない世界を表現したが、時には大広間などのための魅せる大作も手掛けた。また、描く題材を古き良き大阪にとり、個性を発揮したのが菅楯彦(1878~1963年)だ。彼は大阪庶民の生活を温かみのある画風で紹介し、「浪速風俗画」を確立した。門下の生田花朝(1889~1978年)も同時代の風俗を描き、帝展という官営の展覧会で女性として初めて特選を得た実力者であり、人気も高かった。
江戸期から続く富裕層が多い土地柄からか、大阪では彼らの教養や好みにあわせた保守的な内容の作品に高い需要があった。それに対して、時代にあわせた新しき日本画を生み出そうとする画家たちもいた。
出品内容は、博覧会で賞をとった花鳥画、某財閥の当主が愛した文人画、食都の料亭の床の間などを飾るのに適した掛け軸、官展や、近代日本画の巨匠・横山大観(1868~1958年)が率いた院展へ、少数派たる大阪から挑んだ真剣勝負作などバラエティー豊かだ。そう、大阪でも実際には日本画家たちが活躍しており、完成度の高い作品が多く生み出されていたのだ。
これまで大阪の日本画の研究と公開が行われてはきたが、西にとどまる傾向があった。本展は、長い準備期間を経て昨年開館した大阪中之島美術館の収集と研究の歴史を土台に編まれ、選び抜かれた名品が集結した画期的な展覧会だ。大阪に続き東京でも話題になれば、大阪の日本画という大きなテーマが、日本美術史上で繁く語られるようになり、認知度も上がっていくことだろう。
◇片岡愛之助さんが音声ガイドオール 関西弁で魅力紹介
音声ガイドのナビゲーターは、歌舞伎俳優の片岡愛之助さんが務めます。大阪に花開いた独自の日本画の魅力を、オール関西弁で案内します。アプリ「聴く美術」をダウンロードし、各自のスマートフォンとイヤホンを用いて視聴可能。※専用ガイド機器の貸し出しはなし。販売価格650円(税込み)。
◇公式図録・グッズも
会場ショップでは、サコッシュ(かばん)などのオリジナルグッズや出品作品のカラー図版と作品解説を収録した公式図録を販売。図録は通販サイト「まいにち書房」(https://www.mainichi.store/)でも購入できます。送料別。1冊2800円(税込み)。
INFORMATION
展覧会「大阪の日本画」
<会期>
4月15日(土)~6月11日(日)。月曜休館(5月1日、6月5日は開館)。
入館は午前10時~午後5時半。金曜は午後7時半まで。会期中、展示替えあり。
<会場>
東京ステーションギャラリー(東京都千代田区丸の内1、JR東京駅丸の内北口)
<入館料>
一般1400円、高校・大学生1200円、中学生以下無料。
4月14日まで各200円引きの前売り券発売中。
詳細は同ギャラリーホームページ。
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202304_oosaka.html
<問い合わせ>
03・3212・2485(同ギャラリー)
<主催>
東京ステーションギャラリー(公益財団法人東日本鉄道文化財団)、毎日新聞社
2023年4月14日 毎日新聞・東京朝刊 掲載