アンリアレイジのために制作されたヘッドピース

 ジュンヤワタナベやアンダーカバーなど、1990年代に異彩を放ち、世界へと進出したファッションブランドに伴走したヘアデザイナーが加茂克也(65~2020年)だ。その20年にわたる仕事を見せる展覧会が表参道ヒルズ(東京都渋谷区)の「スペース オー」で開かれている。4月2日まで。

 加茂は、モデルの髪の毛をアレンジするだけでなく、デザイナーが打ち出すコンセプトを深め、広く伝える手段として「かぶる彫刻」とも言えるヘッドピースを制作した。前例のない試みは高く評価され、シャネルやフェンディといったトップメゾンとも協働した。03年にはファッションデザイナーに贈られる毎日ファッション大賞でヘアデザイナーとしては異例のグランプリも受賞している。

アンダーカバーのドレスとヘッドピース

 アクリルビーズで顔まで覆ったアンリアレイジのものや、本物の鳥の羽根や枯れ枝を用いたアンダーカバーのものなど261点が並ぶ。一部、洋服と組み合わせて展示したことで、その存在がブランドの個性をいかに引き出しているか、よく分かる。死後、自宅の倉庫から大量に見つかった箱形のオブジェも展示。卵の殻や採取した虫、アンティークの人形などを箱の中で組み合わせていた。こうした作業のなか素材や造形の可能性を探究したのかもしれない。

 ファッションショーをプロデュースする金子繁孝事務所の企画。加茂の発案で本来なら19年に開催予定だったが、本人の病気が判明し、延期されていた。同事務所の譲原玲さんは「デザイナーごとにアイデアの出し方を変え、一緒にものづくりをし、そのエネルギーで引っ張り上げる人だった」と語る。多くのデザイナーやモデルらから寄せられたメッセージが、慕われ、惜しまれ亡くなったその人柄を伝えていた。

2023年3月29日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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