羊皮紙に記された15世紀の「レオネッロ・デステの聖務日課書」(手前)=東京都練馬区貫井の区立美術館で

 石こうボードを国内で初めて作った建材メーカー「吉野石膏(せっこう)」。同社は絵画コレクションにとどまらず、「アートライブラリー」を設立し、貴重書の収集にも取り組む。そんな同社のコレクションを中心とした約200点から、絵画と出版文化の関係に注目した展覧会が東京・練馬の練馬区立美術館で開かれている。

 見どころは、ヨーロッパ中世・ルネサンス期の手写本や活版による印刷本の数々だろう。15世紀半ばに印刷術が誕生するまで、本の複製はすべて人の手によっていた。祈とうなどのための書という機能をはるかに超えたたたずまいは、文字の周囲を彩る鮮やかな青、赤、緑、金色による緻密な絵画や装飾によっている。展示室には写字台や鳥の羽根によるペン、牛の角を削ったインクつぼなどを置き、手写本がどう制作されたかも解説する。ヒツジなどの毛や肉、脂肪をこそげ取り、破れないようにナイフで薄く削って作る羊皮紙に触れられるコーナーも設けた。

1951年に「暮しの手帖社」から刊行された「ぬりえ練習帖」(左の3冊)と梅原龍三郎と安井曾太郎が編集指導した「ぬりえ」=東京都練馬区貫井の区立美術館で

 19世紀英国では、こうした写本を手本に、良質な本を少量、刊行する「プライベート・プレス」が誕生する。吉野石膏は印象派の画家、カミーユ・ピサロの息子、リュシアンが設立した「エラニー・プレス」の印刷物を厚く収集する。家族と共に着彩した豊かな色合いが特徴で、カミーユが原画を描いたこともあったという。

 「800年」という長い射程は戦後の日本の芸術家と出版の関係にまで及ぶ。小磯良平や熊谷守一といった時代を代表する画家らが下絵を描いたぬり絵集や、雑誌の企画でメーカーごとのクレヨンの発色を画家自ら比較した資料も並ぶ。「絵画的な本」から「絵画を伝える本」に至るまで、分かちがたい両者の結びつきが示された。4月16日まで。

2023年3月15日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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