西山美なコ「ハ~イ わたしエリカ♡」(1992年)2021年度大和卓司氏遺贈記念収蔵 ⒸMinako Nishiyama

 (兵庫県立美術館・4月9日まで、「虚実のあわい」は7月23日まで)

 今回取り上げる展覧会は二つの特集からなる。一つ目の「虚実のあわい」は、1970年代以降の日本の現代美術のコレクションを、現実とフィクションとの往還をテーマに紹介する。実在のモデルに肉薄する木下晋の絵画、生きた動物と見まがう東影智裕の立体作品、レーニンの歴史的演説を大阪に舞台を置き換えて再現した森村泰昌の写真など、多彩な作品が並ぶ。

 西山美なコの作品はテレクラという90年代の時代風俗を換骨奪胎してみせる。美術作品という「つくりごと」が、自分自身の「リアル」な経験と地続きのものであると実感させる快作である。90年代を知らない世代には、髙橋耕平や林勇気の映像インスタレーションが同様の感慨をもたらすだろう。

 もうひとつの特集「中国明清の書画篆刻(てんこく)」は地理的・時間的な距離において対照的で、数百年前のものを含む中国伝来の貴重な品々を取り上げる。しかしそれらの品は、私たちが日々、読み書きする文字の来し方を厳かに伝えるものであり、そうと知らなくとも極めて私たちに親しみ深い存在である。

 二つの特集は時代もジャンルも大きく異なるが、ひとつ共通点がある。それは篤志家から寄贈された作品のお披露目の機会だということ。一方は篆刻家・書家の梅舒適(ばいじょてき)氏の一大コレクションが遺贈されたことを記念するものであり、もう一方は大阪大学に長年勤務された大和卓司氏の遺言により収蔵が実現した一連の作品を主役としている。

 作品の横にある説明書きには作者と題名の他に、それがいつ購入されたのか、誰が寄贈したものかといった情報も記されている。展覧会の楽しみ方の本流ではないかもしれないが、時には作品が美術館にたどり着くまでの出来事を想像しながら会場を巡るのも一興である。多くが作家やその遺族、コレクターや美術館を支援する団体などから寄贈されたものであることに驚かれるかもしれない。

 美術館はともすれば、顔の見えない匿名的な存在と感じられてしまうが、実際にはそれぞれの立場でそこに関わってきた人々の思いが積み重なる場所だ。さまざまな来歴を持つ作品の前で、あなたはふと足を止める。その時の思いも受け止めてくれる、そういう場所なのである。

INFORMATION

兵庫県立美術館

神戸市中央区脇浜海岸通1の1の1

2023年3月8日 毎日新聞・大阪夕刊 掲載

シェアする