小牧源太郎「マイミイ・MAIMII『若い日の私』」1989年、市立伊丹ミュージアム蔵

【展覧会】多学の人が見た深遠兵庫で小牧源太郎展

文:山田夢留(毎日新聞記者)

シュールレアリスム

 京都出身のシュールレアリスム画家、小牧源太郎(1906~89年)の画業を、作品と豊富な資料でめぐる展覧会「生きとし生けるもの」が、兵庫県の市立伊丹ミュージアムで開かれている。哲学や宗教学、精神分析学なども動員しながら、描くことで人間の根源に迫ろうとした孤高の画家。その深遠でユニークな世界に触れることができる。

 小牧は京都・丹後地方のちりめん問屋に生まれた。欧州発のシュールレアリスムに触れ、29歳で画家の道へ。「大哲学者、大思想家、大宗教家、大画家のその何(いず)れか」を夢見たというだけあって幅広い学問の素養があり、完璧を求める生来の真面目さも手伝って、すぐに頭角を現した。

 展覧会は、小牧自身の時代区分に基づく5章構成。戦時下の制約から仏教美術を探究し(2章)、そこから派生して日本の土俗信仰を取り入れた独自のシュールレアリスムを展開する(3章)――。時代に翻弄(ほんろう)されながらも、その都度吸収したものを作品に昇華した軌跡が見える。

 シュールレアリスムが下火となり、アンフォルメル旋風が吹き荒れた戦後、小牧は迷いの中にあった。外遊したり、美術界の潮流を取り入れてみたり。試行錯誤の末気付いたのは、自分が描きたいものは結局変わらないということだった。最終5章は、晩年の小牧が追究した「宇宙空間」がテーマ。鮮やかな色彩の印相やチョウ、曼陀羅(まんだら)風の造形などが、緻密な線で細部まで描き込まれている。最後の大作「マイミイ・MAIMII『若い日の私』」(1989年)では、胎内を表す岩窟の中に若き日の自分と母を重ねた。幼少期の病気療養がきっかけで表れた妄想から、度々作品の主題とした「胎内空想」が、常に創作の根底にあったことをうかがわせる。

 88年に個展を開いた縁で、遺族から作品や資料の寄贈を受けた同館。作品は難解だが、スケッチや随所に残る言葉を頼りに、深い思索に分け入ることができる。「小牧自身は自由に見てほしいとも言っている。手描きとは思えない緻密な線や明るい色遣いなど、純粋に面白い絵でもある」と岡本梓学芸員。3月5日まで。月曜休館(072・772・5959)。

2023年2月22日 毎日新聞・大阪夕刊 掲載

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