「芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル」展が25日から、東京・丸の内の三菱一号館美術館で始まる。幕末明治の激動の時代、浮世絵の衰退に直面した二人の絵師の生きざまに迫る展覧会。野口玲一・同館上席学芸員が本展のみどころを解説する。
落合芳幾(1833~1904年)と月岡芳年(1839~92年)はともに、幕末の浮世絵を代表する歌川国芳(1797~1861年)の後継として有力視された兄弟弟子だった。
二人はともに10代で晩年の国芳に入門。慶応2~3(1866~67)年には、幕末の不穏な風潮を反映した残酷な血みどろ絵「英名二十八衆句」を共作した。兄弟子の芳幾はその頃が浮世絵制作のピークで、「太平記英勇伝」を完成させるとともに、影による肖像画など実験的な作品も生み出している。芳年の方は上野戦争に取材した「魁題百撰相」を制作し血みどろ絵の路線を進んだ。
そして芳幾36歳、芳年30歳で明治維新を迎える。文明開化の激動は彼らの生き方を二分していくことになった。芳幾は明治5(1872)年、仲間とともに東京初の日刊新聞である「東京日日新聞」(毎日新聞の前身)の発刊に携わる。同7年には同紙のゴシップ的な記事を錦絵にして大当たりをとる。さらに同8年に挿絵入りの「平仮名絵入新聞」を発刊。これらにより新聞の大衆化に寄与することになる。
明治初年の芳年は雌伏ともスランプとも言われる時期を過ごすが、明治6(1873)年には復活したという意味で「大蘇」芳年と名乗った。彼は浮世絵にこだわり、国芳譲りの武者絵をベースに歴史的主題の作品を展開し、文学性に根差した静謐(せいひつ)な世界も手に入れた。
本展では芳幾の「太平記英勇伝」100図、「芳年武者无類(ぶるい)」33図それぞれの揃(そろ)いを展示する。武者絵は国芳が得意としたジャンルだが、一連の武者絵を見ると彼らが師から受け継いだものをどう展開したのかうかがうことができる。芳幾は師の「太平記英勇伝」を同じタイトルで、武将の背景をテキストで埋めるスタイルもそのままに継承し完成させた。芳年の「芳年武者无類」は武者たちの決定的なシーンを抜き出し、写生に基づく人体表現で緊張感あふれる瞬間を描いている。
またこれまでの紹介では浮世絵師として錦絵(版画)が主であったが、本展では彼らの肉筆画も多く出品する。歌川派の手法を受け継ぎ華やかな美人などを描いた芳幾と、グラデーションによる空気の表現の中に歴史的人物を描き出した芳年、それぞれの画技の直接の比較が可能となっている。
本展を通して、変革の時代を自らの腕によって切り開いていった二人の格闘の姿を見ていただきたい。それは同じように過渡期を生きる現代の私たちにとっても切実な機会となるだろう。
◇会期
25日(土)~4月9日(日)。3月6、13、20日は休館。入館は午前10時~午後5時半
※金曜と3月8日、4月3~7日は午後8時半まで。会期中、一部展示替えあり
◇会場
三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2の6の2、地下鉄・二重橋前駅、日比谷駅▽JR・東京駅、有楽町駅下車)
◇入館料
一般1900円▽高校・大学生1000円▽中学生以下無料。一般前売り1700円、早割2回券3200円は24日まで販売。チケットの詳細、販売場所は公式サイト(https://mimt.jp/ex/yoshiyoshi/)へ
◇問い合わせ
050・5541・8600(ハローダイヤル)
主催:毎日新聞社、三菱一号館美術館
協賛:DNP大日本印刷
特別協力:浅井コレクション
◇関連展示
本展は、幕末明治を舞台とする漫画「警視庁草紙」とコラボレーション。特設コーナーでは、漫画家の東直輝さんの原画や執筆中の動画を紹介する。
◇関連イベント
①講演会「展覧会を語る」=2月23日(木・祝)午後2~3時、オンライン配信
▽講師:野口玲一・三菱一号館美術館上席学芸員
▽参加費:500円
②記念講演会「芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル」=3月11日(土)午後2~4時、3×3Lab Future(東京都千代田区大手町1の1の2)
▽講師:加藤陽介(練馬区立美術館主席学芸員)、野口玲一
▽参加費:1000円
①②とも要事前予約。詳細・申し込みは公式サイトから
◇図録は通販でも販売
会場ショップで販売のほか、3月1日より通販サイト「まいにち書房」(https://www.mainichi.store/)でも販売する。B5変型判。1冊2800円(税込み)
2023年2月22日 毎日新聞・東京朝刊 掲載