【展覧会】祝祭の景色、世界の結婚式 「型」の豊かさ、個性すくう輝き 神戸ファッション美術館

文:(小林公(ただし)・兵庫県立美術館学芸員)

ファッション

 (神戸ファッション美術館・29日まで)
 正月や冠婚葬祭といった特別な場は、個人の趣味嗜好(しこう)を超えたさまざまな約束事、別の言い方をすれば「伝統」や「風習」を知る絶好の機会だ。結婚式を彩る華やかな装いを特集する本展は、しかし私たちが知るそうした「型」が案外自由で、変化に富むものであることを教えてくれる。

「ウェディング・ドレス」1873~75年ごろ

 冒頭で観客を迎えるのは、おなじみの「純白のウエディング・ドレス」。しかし、そのご先祖とも言えそうな19世紀後半のドレスに添えられた解説によれば、白い花嫁衣装に注目が集まったのは1840年の英国ヴィクトリア女王の結婚式がきっかけだったという。思いのほか最近の出来事なのだ。さらに言えば、レース装飾が中産階級の人々にも手の届くものになった19世紀後半になってようやく、白いウエディング・ドレスは一般に定着したらしい。

 それでは、純白のドレス以外にどのような花嫁衣装があり得るのか。その多種多様な可能性を示すのが、展覧会後半に勢ぞろいする世界各地の伝統的な衣装だ。日本の打ち掛けとともに並ぶインドやレバノン、アイスランドなど多様な地域の衣装に施された装飾の豊かさは目もくらまんばかりである。本展の白眉(はくび)はインドのマハラジャ、インドネシアのムラユ人、そして韓国の婚礼の儀式を再現した展示で、花嫁だけでなく、花婿や婚礼に立ち会う人々も集う様子は舞台の一場面さながら。美術館が衣装一式を収集する際に制作したという結婚式の映像まで用意されている。これら一連の資料が民族学的にも貴重なものであることは想像に難くない。

 しかしファッションは、民族学的な資料としてだけでなく、個人の創作や表現としても現れる。展覧会の前半で紹介される国内外のデザイナーによる作例のいくつかは、衣装をまとう人間の個性に応えようとするものだ。それらは、個人と社会との交渉や摩擦から生まれた作品である。型にはまったウエディング・ドレスに食指の動かない人もあれば、ドレスに憧れながらそれに袖を通すことにためらいを覚える人もあるだろう。そうした満たされない思いに寄り添うことができるのもファッションの魅力であるはずだ。その力を借りて、これからも新しい祝祭の景色が生まれてくるだろう。

INFORMATION

神戸ファッション美術館

神戸市東灘区向洋町中2の9の1

2023年01月11日 毎日新聞・大阪夕刊 掲載

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