平子による新作。縦約3.3メートル、横約10メートルの大作だ

【展覧会】
平子雄一×練馬区立美術館コレクション
魅力引き出す新解釈

文:平林由梨(毎日新聞記者)

コレクション

現代美術

 ◇平子雄一×練馬区立美術館コレクション inheritance, metamorphosis, rebirth[遺産、変形、再生]

 美術館のコレクション回帰の流れにおいて際立つ企画だった。コレクションと現代美術のコラボレーションは珍しくなくなったが、作家がコレクションから得た視点を展示で明示し、それをふまえ新作を制作した本展「平子雄一×練馬区立美術館コレクション inheritance, metamorphosis, rebirth[遺産、変形、再生]」は、今を生きる作家の営みと、過去の作品との新たな出合いが同時に体感できる場になっている。

 本展は、東京の練馬区立美術館が同区在住の平子雄一(1982年生まれ)に声をかけ実現した。絵画を中心に、彫刻やインスタレーションを世界各地で発表する気鋭の作家が7500点に上るコレクションから選んだのは新道繁の「松」、野見山暁治の「落日」といった植物や武蔵野の風景を題材にした10点。30~60年代に描かれたもので、展覧会名にある「遺産」にあたる。

新道の「松」(左)と野見山の「落日」(右から2点目)。展示室にはった合板にメモを書き付けた

 平子は、それらの横に自身の技術やコンセプトに共鳴するポイントを書き付け、スケッチを貼り付けた。「変形」作業の可視化だ。「野見山タッチ 理解し難いフィニッシュ だけど気になる(だんだん好きになる)」というように。そして10点と向かい合うように500号4枚からなる展覧会名と同名の大作を掲げた。平子が至ったコレクションの「再生」だ。

 10点が描いた当時の自然を引用しながら、平子は新作で馴致(じゅんち)された現代の自然のありさまを表した。10点から見いだしたモチーフを描き込んだ他、新道のひっかき傷のような線を取り入れたり、「落日」のような色遣いをしたり、引用の痕跡を探す楽しみもある。同館の木下紗耶子学芸員は「作家の目線を通して近代絵画の魅力を引っ張り出してもらった。新鮮だった」と話した。2023年2月12日まで。

2022年12月21日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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