水戸芸術館で開かれている美術家、中﨑透(1976年生まれ)による個展は、その活動の軌跡を見せると同時に、芸術館を舞台にしたひとつのインスタレーションのようでもある。
中﨑は水戸市に生まれ、拠点を置く。地域型芸術祭などで、そこに暮らす人々にインタビューし、土地や街の記憶に根ざした作品を発表してきた。「水戸をモチーフにした新作を」という芸術館からのオファーに応答したのが本展だ。
武蔵野美術大の学生時代から手がける代表作、看板シリーズをはじめ、絵画やドローイング、蛍光灯による立体作品など、20年以上にわたる創作活動から生まれた数々の作品に交ざって目をひいたのは、壁などに印字されたちょっとしたことばの数々だ。
――実験的な施設ができるって聞いても、当時は何をもって実験的かさえもわからないから、全然わからなかった
――小学校の時、家でいろいろ作ったりするのに、ダイエーの4階にいろんな手芸・工作材料が売ってて通ってました
というような。
水戸に生まれ育ち、今も住む30~70代の匿名の男女5人に、中﨑がインタビューして得たことば。芸術館のことを語っていると思われるものもある。
ことばと作品群に関連性はなく、基本的にズレている。記憶の断片が大きな物語に結実していくこともない。ことばが、中﨑自身の歴史でもある作品のなかで複層的に響き合う。同館現代美術センターの竹久侑芸術監督は「ことばに導かれて会場をたどるうちに、見る人の中にも、もう一つの物語が芽生えるでしょう」と語る。そんなとき、わたしたちはまさにフィクション・トラベラーになるのだろう。2023年1月29日まで。
2022年12月7日 毎日新聞・東京夕刊 掲載